近年、FIT単価の低下や電気料金の高騰などによって、太陽光発電の導入は売電目的から電気代削減を目的とした自家消費にシフトしています。
企業による「太陽光発電」の導入が広まるなか、停電対策として蓄電池を併用したいというご相談も増えています。
本記事では、企業が太陽光発電に注目する背景と、蓄電池を併用するメリット・デメリットについて解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
【速報】太陽光発電の補助金の一部は蓄電池の併設が重要
各省庁から2023年度の太陽光発電関連の補助金の概算要求が発表されました。
主要な補助金制度の中には、新たに「太陽光発電と蓄電池のセット導入の支援を拡充」や「蓄電池の導入が必須」という記述が加わった制度もあります。
政府としても、再生可能エネルギー普及のためには蓄電池の導入促進が重要だと捉えていることが伺えます。
「今、太陽光発電と蓄電池の導入に取り組みたいけど、費用面がネックになっている」という企業の方は、今年の導入がチャンスといえます。今後も補助金制度の動向は要チェックです。
太陽光発電の自家消費が注目されている理由
自家消費とは、太陽光発電によって作られた電気を、生活や企業活動のための電気として使用する仕組みをいいます。つまり、「自社(自分)で使う電気は、自社(自分)で作る」という考え方です。
2019年ごろまでの産業用太陽光発電は、家庭用と異なり「全量売電」が主流だったため、差別化の意味でも自家消費型太陽光発電と呼ばれています。
太陽光発電の自家消費が注目されている主な理由は以下のとおりです。
- 売電単価が低下している
固定価格買取制度(FIT)の売電単価が低下しており、現在では売電がメインではなくなりつつあります。10kW以上50kW未満の太陽光発電では2012年の売電単価42円/kWhに対して、2023年では10円/kWhまで低下しています。 - 電気代の上昇
太陽光発電の売電単価が下がる一方で、燃料価格の高騰などの要因で企業が負担している電気料金は高止まりしています。 - 非常時の事業継続性を高める必要性が高まっている
地震や豪雨など自然災害によって電力などのインフラ機能が停止した際に、停電対策など事業継続性を高める必要性が注目されています。
詳しくは以下の記事でも解説しておりますので、こちらもご覧ください。
企業の太陽光発電と蓄電池の組み合わせが注目される理由
太陽光発電の運用の柔軟性が高まる
太陽光発電を導入している場合、蓄電池を併用することで電気を効率よく使用できます。
たとえば制御システムを搭載した蓄電池を導入すれば、工場や事業所などの建物で電気をたくさん使うタイミングで自動的に放電するなど、受給バランスを考慮した運用ができます。
これにより、電気代削減効果の向上に繋がります。
太陽光発電補助金の採択基準に蓄電池の設置が求められる
冒頭でお伝えしたように、2023年以降は太陽光発電関連の補助金を交付する企業を選定する際の評価ポイントとして、蓄電池の導入が重要になります。
経済産業省の補助金資料では「蓄電池併設型の太陽光導入について支援を拡充」という記述が、環境省の補助金では「※蓄電池(V2H充放電設備含む)導入は必須」という記述が、2023年度から追加されています。
政府はストレージパリティ(蓄電池を導入しないより、したほうが経済的メリットが大きい状態)を目指しており、そのためにも蓄電池の普及を促進したいという狙いがあるようです。
太陽光発電で蓄電池を併用するメリット
太陽光発電と同時に蓄電池を設置するメリットを解説していきます。
非常用電源としての機能性が高まる
近年、地震や台風など自然災害による停電被害が増加しています。自然災害などによる停電が起きても、日中であれば太陽光発電が作った電気を建物で使用でき、非常用電源の役割を果たします。
しかし、雨の日や夜間での停電には、太陽光発電のみでは発電ができず対応できません。そこで蓄電池を併用することで、天候や時間帯の制限を受けずに日中に貯めていた電気を使用できます。
近年では、非常事態発生時において従業員の安否確認、取引先企業との緊急連絡のためのOA機器のバックアップ電源、事業の継続・早期復旧を図るBCP対策の一環として、太陽光発電と蓄電池による停電対策を検討する企業が増加しています。
効率的な電気代削減に繋がる
自動制御機能付きの蓄電池を導入すれば、発電と電力消費のバランスを自動で調整してくれます。
電力会社との契約における「30分間の電力消費平均値」のことをデマンドといい、過去12カ月(当月含む)でデマンドが最も高かった時の値(最大デマンド)が電気代の基本料金の基準となります。
上記画像の例でいえば、他の月に電気代を節約したとしても、電気代の基本料金は最大デマンドが500kWの月をもとに計算されます。
太陽光発電と蓄電池の併設により、電気の使用量が大きい時間帯に自家発電した電気を使用することでデマンドコントロールができれば、効率的な電気代削減に繋がリます。
CSRへの貢献とイメージ向上
太陽光発電と蓄電池の併設は、企業のCSR(企業の社会的責任)に対する取り組みとしても評価されます。
太陽光発電によって再生可能エネルギーの活用に取り組むだけでなく、蓄電池によって災害などによる停電時の事業継続性を高めている企業は、社会的な責任を果たす努力をしていると認識されます。
さらに、上記のような取り組みは、取引先にも脱炭素化の取り組みを求める企業や、災害時でもサプライチェーン全体の事業をストップさせたくない企業からの支持を受け、企業の競争力を高めることにも繋がります。
太陽光発電で蓄電池を併用するデメリット
定期的な交換が必要
基本的に蓄電池には寿命があり、使用していくにつれて性能も落ちていきます。そのため、寿命を迎えた蓄電池は交換が必要になります。また蓄電池とは別に、パワーコンディショナも10年程度で交換が必要となります。
設置スペースが必要
産業用蓄電池はサイズが大きく、ある程度の設置スペースを確保する必要があります。たとえば、Panasonicのリチウムイオン蓄電システムLJMH208(容量20kWh)の仕様書によると、本体サイズは幅1000mm×奥行940mm×高さ1850mm(チャンネルベース、排気フード含む)と記載されています。
制御盤やパワーコンディショナ、排熱のための通気経路や設備を導入する必要がある場合、それらのスペースも確保する必要があります。
投資回収年数が長くなる
メーカーによって若干変動しますが、産業用蓄電池の相場は15万円から20万円/kWh前後(工事費別)であり、非常に高額な設備投資となります。
太陽光発電と産業用蓄電池を同時導入した場合、投資回収期間が太陽光発電単体と比べて長くなります。
そのため、太陽光発電と蓄電池の同時導入をご検討される企業様のなかには、家庭用蓄電池で特定の部屋だけバックアップするケースもあります。
しかし、先述したように国や自治体の補助金の中には、太陽光発電と蓄電池を導入する際に対象となるものがあります。導入を検討する場合は、補助金の情報を定期的にチェックすることをおすすめします。
産業用太陽光発電で利用する蓄電池とは
太陽光発電で発電した電気を一時的に貯めておける蓄電池にはいくつかの種類があるため、それらを紹介していきます。
蓄電池の種類
- リチウムイオン電池:サイズが小さいかつ急速充電が可能な蓄電池。寿命が約10年と短く費用も他の蓄電池より高価だが、限られたスペースに設置ができる。
- 鉛蓄電池:リチウムイオン電池と比べて安くて安価な製品が多く、長時間でも安定した放電が可能。他の蓄電池より大型でスペースの問題があるのがデメリット。
- ニッケル水素蓄電池:価格はリチウムイオン電池と鉛蓄電池の間くらい。寿命が約7年と短いのがデメリット
- NAS蓄電池:エネルギー密度が高いのにコンパクト、さらに寿命が約15年という特徴を持った蓄電池。ただし作動温度が300℃程度であり常温では作動しないなど一般的に普及するには課題もある。
蓄電池の設置費用
家庭用蓄電池の場合、もっとも人気のある5kWhや7kWhであれば本体+工事費で80万円から200万円程度で収まる可能性が高いです。ただし、10kWhを超える場合や性能が高い製品であれば、200万円以上かかるケースもあるでしょう。
産業用蓄電池の場合、2019年度の実績では工事費含めて1kWhあたり約24万円が平均的な費用となっています。ただし、メーカーや施工店によって開きがあり、定価というものが出しにくい状況です。
大規模事業所で使用する電力をまかなえるほどの蓄電池容量を導入しようとすれば、蓄電池だけで一千万円以上かかることも考えられます。
(参照元:蓄電池産業の競争力強化に向けて(PDF)|経済産業省)
まとめ
太陽光発電と産業用蓄電池を併用することで、夜間や曇り、雨の日など太陽光発電の発電量低下の際でも電気を使用できます。
非常用電源としてBCP対策に役立てたり、効率的な電気代削減効果にも繋がるため、脱炭素経営を推進したい企業の方は注目したいシステムです。
また、産業用蓄電池の導入コストは数百万円から数千万円と非常に高額ではありますが、補助金制度を活用することで投資回収年数を短くできます。
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