企業は、自然災害・感染症の流行・システム障害などの脅威から、会社と従業員を守るための対策をとることが求められます。この対策は、総称して「BCP(事業継続計画)」と呼ばれています。
この記事では、下記4つのテーマでBCP対策について解説していきます。
- BCP対策の目的
- BCP対策の事例
- 中小企業におけるBCP対策
- BCP対策への助成や支援
ぜひ自社での危機管理や事業継続戦略にお役立てください。
目次
BCP(事業継続計画)対策とは
BCP(事業継続計画)対策の目的
BCP対策の「BCP」とは、「Business Continuity Plan」の略で、日本語では「事業継続計画」という意味です。
具体的には、企業が自然災害・感染症の流行・システム障害などの急な事態に遭遇した時、事業の損害を最小限にとどめ、事業の継続や早期復旧をするための方法や体制を決めたり、訓練したりすることを指します。
BCP対策には、おもに3つの目的があります。
1. 従業員と事業を守る
何よりまず「従業員の生命や健康を守る」ことが大切です。例えば、自社社屋や自社工場の倒壊を防ぐための耐震対策を行ったり、感染症の感染を防ぐためのテレワーク体制を整えたりする取組があります。
その上で「事業を守る」ことも重要です。経済活動を継続させることでは、従業員の生活が守られ、取引先の事業継続にも好影響を与えます。
2. 企業価値の向上
BCP対策に取り組んでいることは、企業の価値や競争力の向上に繋がります。
2019年3月に東京商工リサーチが発表した情報によると、2011年3月に発生した東日本大震災の影響で、2019年2月までに累計1,903件の倒産が確認されました。
そのうち「間接被害型」、つまり「自社ではなく取引先が被災したことによる倒産」が全体の89.3%という結果でした。
近年は、大雨による水害や感染症などの事態が頻発していることもあり、今後は一層、BCP対策を行い災害時の倒産リスクが少ない企業が信頼を得やすくなるでしょう。
3. CSR
CSRとは、「自社の利益だけを追うのではなく、社会に対して責任を果たすこと」です。BCP対策を行う姿勢を社会に示すことで、企業のイメージ向上に繋がります。
例えば、企業が再エネ設備導入による非常用電源を地域の人たちに開放し、地域貢献を行う取組などがあります。
BCP対策が中小企業にとって必要な理由
中小企業にBCP対策が必要な理由は、「どのような企業でも、非常事態の発生後だとしても早期の事業継続を図り、顧客のニーズを満たす努力をすべきだから」とされています。
しかし、まだまだBCP対策が世の中の企業、とくに中小企業に浸透していない現状があります。
事業に支障がでるような事態が発生しても、顧客からは普段と変わらない対応が求められるため、下記3つの内容を非常時のなかで即座に判断し、復旧を目指して行動できる体制を整えておくことが大切です。
- 自社の被害の状況
- 足りない要素(人、モノ、金、情報)
- 何をいつまでにすべきか
これらの対応を行うためには、あらかじめ計画を定め、実際に計画を実行するために訓練を行っている必要があります。
BCP対策で重視するポイント
BCP対策が大切なのは分かったとしても、計画を策定する際はどのような視点で作るといいのでしょうか。以下にBCP対策策定の5つのポイントをご紹介いたします。
1. 人的リソースの整備
事業所や施設が復旧しても、従業員が復帰できなければ事業再開は困難です。従業員の被災状況を把握する方法や、少人数での営業方法など明確にしておく必要があります。
2. 代替手段を用意する
建物や内部の重要設備が被害を受け、生産・調達・流通などができない場合に代わりとなる方法を用意しておくことが大切です。
3. 有事の際の資金を確保しておく
事業が中断した場合の資金面の被害額を想定しておき、その間のキャッシュを確保しておくことも大切です。また、中小企業向けの「緊急時融資制度」や「特別相談窓口」などの支援制度についても把握や情報収集をしておきましょう。
4. 企業同士の連携をとる
同業者同士や取引企業同士で、BCPに対して情報交換を定期的に行うことをおすすめします。この取組の結果、被害の少ない企業が困難に陥っている企業を助け、事業継続に繋がることもあります。
5. 有事の際の体制を事前に構築しておく
被災直後の混乱のなかで適切に行動できるよう、有事でも的確に指示を出せる指揮者を選定しておきましょう。さらに指揮者不在の場合のために、各部署にサブリーダーを配置するなど体制づくりが大切です。
日本でBCPが注目されるようになったきっかけ
世界では、BCPの考え方自体は1970年以降から存在していましたが、重要性の認識が高まったきっかけは2001年9月のアメリカ当時多発テロ事件でした。
日本ではBCPの必要性がどのように変化してきたのかみていきましょう。
東日本大震災(2011年)
日本でBCP対策の注目度が大きく上昇したきっかけは東日本大震災です。
多数の被災した企業やそれらの企業の取引先が大きな打撃を受け、国内でBCP対策の認知度・重要度が高まったといえます。
近年の集中豪雨や台風による被害
東日本大震災以降、BCP対策では地震への対策に重きを置いてきました。
しかし、2018年の「西日本豪雨」や2019年の台風15号・台風19号などをきっかけに、地震だけでなく水害や他の自然災害にも目を向けるようになりました。
新型コロナウイルス(2020年〜)
自然災害に対するBCP対策を強化する企業が増加したなか、新型コロナウイルス流行という想定外の事態が日本にも大きな影響を及ぼしました。
新型コロナウイルスが流行した2020年以降は、感染症に対するBCP対策の注目度が高まっています。
2023年はコロナウイルスの感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行されますが、感染症に対するBCPの重要性は今後も変わらないでしょう。
BCPとBCM・防災の意味の違い
BCPと似た用語として「BCM」「防災」があります。
これらの単語の意味合いは混同しやすいため、それぞれの違いについて簡潔に説明します。
BCPとBCMの違い
BCMとは、「Business Continuity Management(事業継続マネジメント)」の頭文字を取ったものです。
BCPは非常時における事業の継続・早期復旧までの「計画」を指すのに対し、BCMはその計画を実行するための「マネジメント」を指します。
具体的には、BCPを組織に浸透させるための体制づくりや社内教育を行っていくという意味です。
BCPと防災の違い
BCPと防災の違いは以下のとおりです。
BCPはすべての非常時、防災対策は自然災害時
BCP対策は自然災害を含め、感染症の流行、停電、事故、社会情勢など、さまざまな要因に対して行います。
防災対策は台風、地震、水害などの自然対策のみを対象とします。
BCPは他社も関わるが、防災対策は自社内のみ
BCP対策は、自社の対策だけでなく、取引先やサプライチェーンを守るための対策も含みます。例としては取引先の企業と共同で資産を確保するなどの方法があります。
防災対策は、自然災害から自社の従業員や設備を守ることが対象となります。
BCPは事業継続、防災対策は人命や資産の保守に重点を置く
BCP対策の初期対応は、従業員や顧客の安全を考慮するのはもちろんですが、基本的にその後の事業継続性を高めることに重きを置いています。
防災対策は、人の命や設備を守ることに重きを置いています。国内外のBCP対策事例
アメリカ・アジア諸国での取り組み
欧米では、多くの企業がBCP対策を進めているほか、ガイドライン化(一連の行動を決定するための指針・方針)の動きが進んでいます。
アメリカは、2004年にBCPに関するガイドラインを発行し、BCP普及に努めています。アジア諸国においても、シンガポール、香港、マレーシアなどで活発化しています。
企業の取組例では、アメリカのITサービス会社「イーマザンティ テクノロジー(eMazzanti Technologies)」が、BCP対策をPDCAサイクルの手法を活用して災害に備えていたため、アメリカ国内での総額約8兆円の被害を記録した2012年10月の大型ハリケーンを乗り越えた事例があります。
具体的には、ハリケーン発生に備えて以下のIT-BCPを行い、「顧客のデータを72時間以内にすべて復旧」「データ損失はゼロ」という成果を残しました。
- Plan(計画):ハリケーン直撃前に、あらかじめ策定したBCPを実行に移す。全従業員がカスタマーサポート業務につき、バックアップ体制も万全に整えた。
- Do(実行):ハリケーンによって自社の電源がストップした時点で、被害がない場所にある従業員の自宅を仮オフィスとしてセットアップ。従業員の携帯電話で顧客へ連絡し、生の声を基にサポート内容の優先順位を決定。
- Check(確認):結果として「顧客を100%保持」「データ損失0%」を実現。損害を受けた競合他社が廃業し、その顧客が流れてきた結果、「顧客数50%アップ」。
- Action(改善):さらに対応を強化。2013年にアメリカで発生した大寒波の際は、嵐が来る前に顧客に注意喚起のメールを送信。「具体的な対応策を示してくれたのはイーマザンティだけだった」と顧客に評判だった。
もし、イーマザンティのBCP対策が進んでいなければ、災害に対応できず顧客のデータを紛失し、廃業してしまった同業他社と同じ道を辿っていたかもしれません。アメリカの企業にとって、適切なBCP策定について考えさせられる出来事となったでしょう。
イトーヨーカ堂のBCP対策
日本のBCP対策事例として、総合スーパーの「イトーヨーカ堂」の取り組みを見ていきましょう。
食品や生活必需品を扱うイトーヨーカ堂は、「お客様・取引先・株主・地域社会・社員に信頼される誠実な企業でありたい」という社是をかかげており、それを実践する方法がBCPであるという考え方を持っています。
2009年に起きた新型インフルエンザの流行時には、事前に「策定した対応手順の周知」「備蓄品の準備」を行っていたため、大きな混乱はなく、イトーヨーカ堂内での感染率は1.9%と低い数値で収束を迎えました。
日本ではテレワークや時差勤務拡大などの施策を導入する企業も
病理検査機器・器材のサプライヤーである「サクラファインテックジャパン」は、MRワクチンやインフルエンザワクチンの社内集団接種・費用全額補助を全社員に毎年実施するほか、感染症対策を支援するプロジェクトに参加するなど、以前から感染症対策に積極的に取り組んでいる企業です。
その結果、2016年10月には「感染症に係る業務継続計画(感染症BCP)」を作成しています。
このような取り組みを早くから行ってきたため、2020年に新型コロナウイルスが流行した際にも、速やかにテレワークや時差勤務の体制をセットアップし、感染予防で社員の安全を守りつつ、全員が出社しなくても普段通りに事業を行うことを実現しています。
中小企業ではBCP対策が進んでいない
ここから、調査の結果をもとに中小企業のBCPについて見ていきましょう。
2020年5月に帝国データバンクが行った「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2022年)」では、BCPを「策定している」と答えた企業は、17.7%という結果が出ています。
そのうち、規模別では「大企業」が33.7%が対策しているのに対し、「中小企業」では14.7%にとどまっています。BCPの重要性の認識が拡大したものの、中小企業ではまだまだ進んでいないのが現状といえます。
事業継続が困難になると想定するリスクへの回答は、「自然災害」(71.0%)がもっとも高い結果でした。特徴的な数値として「感染症」(53.5%)は前年から大幅に低下した一方、「情報セキュリティ上のリスク」(39.6%)、「物流の混乱」(30.4%)、「戦争やテロ」(19.0%)などの項目が大幅に上昇しています。コロナ対策への意識の変化や、企業の情報漏洩、ロシアによるウクライナ侵攻などのニュースによる事業者の意識の変化が伺えます。
企業が「BCPを策定していない」理由への回答は「策定に必要なスキル・ノウハウがない」(42.7%)がトップ、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」(31.1%)が続いています。中小企業からは、BCP対策の必要性は認識しながらもノウハウやリソースの問題から策定ができない状況が読み取れます。
BCPを策定する方法
BCPを実際に策定するためには、外部コンサルに相談したり、ガイドラインを参考に自社で作成したりする方法があります。
BCPコンサルに相談する
「BCP対策は重要だと思うが、細かく学ぶ時間がない」という企業の場合は、外部のコンサルタントに相談するという選択肢があります。
外部にBCP対策の策定を依頼する場合、費用がかかるものの、時間をかけずに最適なBCP策定ができます。
BCPコンサルにかかる費用はコンサル会社で約100万円から200万円、行政書士事務所で約40万円、中小企業診断士で約30万円程度です。
ただし、事業所の規模や従業員数によって変動するため、自社に合った提案をしてくれるコンサルタントを見つけるよう比較検討しましょう。
ガイドラインを参考にする
内閣府:事業継続ガイドライン
BCP策定のガイドラインの1つが、内閣府が発行している「事業継続ガイドライン」です。
2021年4月には、2013年8月改訂が加えられており、水害・土砂災害からの避難のあり方や、災害時の従業員の外出抑制政策等が追加されています。
57ページと長めですが、緊急時の対応について細かく記述されているため、まずはこれに沿って自社でBCPの方向性を考案していくのが第一歩といえます。
事業継続ガイドライン(2021年4月改定版)中小企業庁:中小企業BCP策定運用指針
中小企業のBCP策定をサポートするため、中小企業庁はサイト内にて「中小企業BCP策定運用指針」を公開しています。
「BCP策定に必要なノウハウやリソースがない」企業は、このウェブサイトを利用すればBCP策定に関する課題が解消されるかもしれません。
「BCP取組状況チェック」で現在のBCP策定状況を診断できるほか、「BCP策定運用指針」に沿って経営者やリーダーの考えを記入していけばBCP策定ができます。
この指針は「入門」「基本」「中級」「上級」の4つのコースに分かれています。「入門」であれば経営者1人で1時間から2時間程度、「上級」であれば経営者とサブリーダー含めて1週間程度が策定にかかる期間の目安となります。中小企業がBCP策定にかけられる時間や労力に応じてコースを選びましょう。
厚生労働省:新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン
施設・事業所内で新型コロナウイルス感染症が発生した場合の対応や、普段から準備しておくべきことがガイドライン化されています。
新型コロナウイルスは、2023年5月に感染症法上の位置づけが「5類」に移行する予定です。感染症BCPを策定しておくことで、今後も感染症の流行が発生した場合でも的確な対応をしやすくなるでしょう。
BCPを策定する際に考慮すること
自社の事業や立地を踏まえた独自の対策をする
自社の事業内容や拠点場所を考慮したうえで、必要な対策を構築することが大切です。
たとえば山間部と海岸の近辺では注力する自然災害も異なりますし、物流が絡むなら取引先との連携は不可欠でしょう。福祉施設であれば空調に使う電源のバックアップが重要です。
このように、自社にとっての大小あらゆるリスクを洗い出し、対策をまとめていくことが重要です。
余力があればあらかじめ損失の分析を
たとえば自然災害によって主力の拠点が事業停止した場合、どれくらいの損失が発生するのか、復旧に必要な期間や費用はどれくらいか、補償制度はあるのかまで調べておくと、いざというときに素早く動けるでしょう。復旧に時間がかかるケースをみこんで、代わりの生産ラインを確保することも重要です。
社内への周知を徹底する
BCPは策定するだけでなく、社内で策定内容の周知をしておくことが重要です。
たとえば、アメリカの同時多発テロの際のBCPの例としてよく挙がるメリルリンチ社は、本社機能停止に備えて2日間に及ぶ全社模擬訓練を実施していたことにより、緊急時に素早く9,000人の従業員をビルから避難させ、同時に他の支店と常時接続した回線を繋ぎ、業務連絡を行うことを円滑に実現しました。
このように、策定したBCPを実際に周知・訓練をしておくことが素早い行動に繋がります。
優先する事業を決める
最優先で復旧対応すべき事業を決め、事業ごとに対応を考えていきます。もとの運用体制に戻るまでの時間や人員配置をどうするかなど、細かく決めておくとベストです。
まとめ
ここまで、BCP対策の概要、事例、中小企業の現状、自治体の支援についてご紹介してきました。BCPを策定することは、非常時に適切な行動をとり、事業・従業員・顧客を守ることに繋がります。
「何を決めたら良いかわからない」「時間がない」という経営者・役職の方は、記事内でご紹介した「中小企業BCP策定運用指針」を活用し、まずは必要最低限のBCPを策定することから始めてはいかがでしょうか。
太陽光設置お任せ隊(運営:株式会社ハウスプロデュース)では、BCP対策の1つである「非常電源の確保」に貢献する「自家消費型太陽光発電」の提案から設計までを、ワンストップで承っています。BCP対策のほか、電気代削減にも繋がる自家消費型太陽光発電に関しては、以下のページからご覧ください。