近年、温暖化が引き起こす気候変動による被害が世界中で顕在化しています。世界各国ではパリ協定(2020年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組み)下で、「温室効果ガス排出量を実質的にゼロにする」いわゆる脱炭素社会の実現に向けて、既に炭素税が導入されています。
環境省の中央環境審議会地球環境部会「カーボンプライシングの活用に関する小委員会」にて炭素税の制度設計に向けたコンセプトを提示されたことから、 日本においても炭素税の本格導入が検討されています(2021年3月2日時点)。脱炭素社会に向けた政府の動向は、経済界も注視しています。
経営者のなかには国際基準に基づく環境対策が必要であるという考えを持つ方もいます。今回は、炭素税とはどういった税金なのか、炭素税導入による諸外国の取り組みや、企業経営にどう影響するのかを解説します。
目次
炭素税とは
炭素税とは、環境破壊や資源の枯渇に対処するための取り組みを促進する環境税の一種です。
- 化石燃料(石炭・石油・天然ガス)に含まれる炭素の量に応じて税金を課す
- 化石燃料やそれらを利用した製品の製造・使用の価格を引き上げる
上記のような取り組みによって環境資源の浪費と二酸化炭素排出量を抑える経済的政策手段です。
炭素税は、欧州などで既に導入されており、国などが二酸化炭素の排出量に価格を決めた上で、企業や個人が二酸化炭素の排出量に応じて税を払うことが基本的な仕組みです。
環境税とは
環境税とは、地球温暖化防止のための有力な手法の一つとして議論されている税金です。
環境破壊や資源の枯渇の問題に対処するための資金を価格に組み込み、環境負荷が大きい活動に対して税率を高くします。反対に、環境保全の促進に貢献している活動への税金の負担を軽減します。
このように、市場のルールに環境コストを織り込むことで、企業や個人の活動パターンを環境負荷が小さいものへと転換させるよう誘導を図っています。
日本においても、2020年10月26日に当時の菅首相による所信表明演説において 「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロ」にする方針を打ち出したのを機に、グリーン政策が急ピッチで進められています。
たとえば、近年では炭素税など新たな環境関連税の導入や、地球温暖化対策の推進に関する法律の強化などの動きが見られます。
カーボンプライシング(CP)とは
画像引用:資料3 インターナル・カーボンプライシングについて|環境省ホームページ
炭素税のように「炭素の排出量に対して価格付け」を行うことをカーボンプライシング(Carbon Pricing)といいます。
炭素に価格を明示して負担させるカーボンプライシングには、政府によって価格が設定される「カーボンプライシング施策」(例:炭素税)と、政府が企業などに分配した排出枠の市場価格があてられる「インターナルカーボンプライシング」(例:国内排出量取引制度など)の2つに大別されます。
インターナルカーボンプライシング(ICP)とは、「気候変動への対応はビジネス上での優位性に影響する」という前提に基づき、現在または将来の事業活動に伴う環境負荷の影響を考慮し、意志決定を戦略的に行うために企業が自主的に炭素に価格付けを行うことをいいます。
画像引用:資料2-2 イ【参考資料】インターナルカーボンプライシングの概要|環境省ホームページ
低炭素への活動内容、目的や影響範囲は企業によってさまざまです。
自らの炭素排出量の管理や事業計画・投資計画などの判断材料として導入されています。
炭素税に対する日本の取り組みと課題
2012年に地球温暖化対策税を施行
日本では、2012年10月から「地球温暖化対策のための税(以下「温対税」という)」が導入されました。温対税は、化石燃料の利用に伴う環境負荷に応じて課税され、税収は再生可能エネルギーや省エネの導入など次世代エネルギー分野の発展に役立てられます。
課税によるCO2排抑制効果と、税収を排出抑制対策に充てることで二重の抑制効果を期待できます。日本の温対税は、ガソリン・灯油・天然ガス・石炭といった全ての化石燃料に対して課税を行う石油石炭税の仕組みを活用して、それぞれCO2排出量に応じて税率が上乗せされます。
石油石炭税は、化石燃料の輸入者や採取者などに課税されるもので、消費者や事業者に直接課税されるものではありませんが、ガソリンや石炭など化石燃料の価格に反映されるため、間接的には消費者や事業者が負担している税金といえます。
地球温暖化対策税は、諸外国でもそれぞれの国の実情に応じた方法で導入されています。
CO2排出量1トン当たり289円が「地球温暖化対策税」として上乗せ
画像引用:地球温暖化対策のための税に関する資料|財務省ホームページ
石油石炭税は、化石燃料の種類、単位使用量に応じた税率が定められています。
従来の石油石炭税は、原油・石油製品は1キロリットル当たり2,040円、ガス状炭化水素は1トン当たり1,080円、石炭は1トン当たり700円となっています。そこから、「地球温暖化対策税」として、CO2排出量1トン当たり289円が上乗せされます。
なお、エネルギー使用量が多い大量輸送や公共交通に関わる産業などは負担が重くなるため、免税・還付措置が実施されています。
地球温暖化対策税と諸外国の炭素税の比較
国名 | 導入年 | 2020年時点の税率 (円/tCO2) |
税収規模(億円[年]) |
---|---|---|---|
日本(温帯税) | 2012 | 289 | 2,600[2016年] |
フィンランド(炭素税) | 1990 | 7,640(暖房用) 8,170(輸送用) |
1,624[2016年] |
デンマーク(CO2税) | 1992 | 3,050 | 654[2016年] |
スイス(CO2税) | 2008 | 9,860 | 970[2015年] |
カナダBC州(炭素税) | 2008 | 2,730 | 1,092[2016年] |
(参考:諸外国における炭素税等の導入状況|環境省)
日本の温対税は段階的に税率を引き上げているものの、「炭素税」を定めている諸外国に比べて低い価格水準です。
低炭素型社会への移行で世界をリードしているスウェーデンでは二酸化炭素排出量1トンあたり119ユーロ(約15,670円)に比べて、日本の温対税は二酸化炭素排出量1トンあたり289円と非常に低い水準です。
日本の温対税の二酸化炭素排出削減効果については、税率の引き上げによって国民に省エネ行動を促す「価格効果」と税出を排出削減の目標よする事業に充当する「財源効果」で分けて試算されています。
2017年に環境省が行った「2030年と2050年における地球温暖化対策税の価格効果と財源効果の試算」によると、2020年時点で価格効果による0.2%(約176万トン)の二酸化炭素排出削減(1990年比)、財源効果は、0.4%から2.1%(約393万トンから約2,175万トン)の削減(1990年比)と価格効果よりも高く見積もられています。
日本の温暖化対策の効果の大部分は「財源効果」によるものであり、税率の引き上げによる温暖化対策の貢献はごく小さいものであることがわかっています。
画像引用:平成29年度 炭素税導入及び引上げプロセスにおける課題と解決手法に関する国際比較調査・分析等委託 p142|みずほ情報総合
一方、1990年から2014年までを比較して諸外国では、炭素税の導入により二酸化炭素排出削減とGDPの成長を両立するディカップリングが進んでいます。
諸外国ではGDPの成長に伴い二酸化炭素排出量が減少傾向にありますが、日本ではGDPもCO2排出削減量もほとんど横ばいの状態が続いています。
画像引用:平成29年度 炭素税導入及び引上げプロセスにおける課題と 解決手法に関する国際比較調査・分析等委託 p144|みずほ情報総合
前述したとおり、日本はパリ協定の達成に向けて「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロ」を実現することを目標としています。
そのため、既存税(温対税など)の引き上げ、新たな炭素税の構築など、二酸化炭素排出削減に向けてGDP成長を織り込んだ動きになることが予測さてます。
炭素税を導入した諸外国の取り組み
フィンランドにおける炭素税の取り組み
1990年、世界で初めて炭素税を導入したのがフィンランドです。1997年及び2011年に実施されたエネルギー税制改革では、炭素税の税収から所得税や企業の社会保障費の一部が補填されています。
2019年6月には、フィンランド政権が「2035年の二酸化炭素ネット排出量ゼロ目標」を発表。国内電源の40%を占める火力発電を段階的に廃止する意向を示し、2035年までの炭素中立を実現するための改革として、産業部門に対するエネルギー税軽減そちの廃止を伴った電気税のユーロ裁定税率の引き下げなどが検討されています。
フィンランドの「温暖化対策税」の概要
参考:諸外国における炭素税等の導入状況|環境省資料
税の形態 炭素税(1990年に導入) 課税対象 暖房用・輸送用の化石燃料消費に対し課税 減免措置
- 石油精製プロセス、原料使用、航空機・船舶輸送(個 人航行を除く)、発電用に使用される燃料は免税。
- CHP(熱電併給システム)は減税
- バイオ燃料はバイオ燃料含有割合に応じて減税
- エネルギー集約型産業に対し還付措置
税収の使徒
- 一般会計。
- 1997年及び2011年にエネルギー税制改 革を実施。
- 所得税の減税。
- 企業の社会保障費削 減による税収減の一部を、炭素税収により補填。
スウェーデンにおける炭素税の取り組み
スウェーデンでは、1991年にフィンランドに次いで世界で2番目に炭素税(CO2税)の導入を決定しました。段階的な炭素税の引き上げによって2017年時点で炭素税の税率は世界最高の119ユーロ/tCO2(約16,000円)に達しています。
また、炭素税導入と同時期に法人税を53%から30%まで税率を大幅に引き下げたり、炭素税の増収によって得た税収増額分の相当額を低所得者層の所得税軽減に活用したりといった取り組みを行っています。
このような取り組みの結果、炭素税導入前(1990年)と比較して2015年時点には、25%のCO2排出量削減とGDP69%増加し、高い税率にも関わらずCO2排出量削減とGDP成長の両立に成功しています。
スウェーデンの「温暖化対策税」の概要
参考:諸外国における炭素税等の導入状況|環境省資料
税の形態 炭素税(1991年に導入) 課税対象 暖房用及び輸送用の化石燃料消費に対し課税 (電力は除く)。 減免措置
- EU-ETS対象企業、発電用燃料及び原料使用は免税
- CHP(熱電併給システム)等は免税。
税収の使徒
- 一般会計。
- 炭素税導入時に、労働税の負担軽減を 実施。
- 2001~2004年の標準税率引上げ時には、低所得者層の所得税率引下げ等に活用。
デンマークにおける炭素税の取り組み
デンマークでは、1992年に化石燃料及び廃棄物の消費に対して課税するCO2税(炭素税)として標準税率100デンマーククローネ/tCO2(約1750円)で導入されました。
導入当初から工業・産業用途に50%の大幅な軽減税率を適応しておりましたが、1996年には軽減措置を廃止。2010年には税率を一本化してインフレ率に応じて設定されています。
デンマーク政府の「エネルギー戦略2050」の目標として、2050年には化石燃料から完全な脱却(再生可能エネルギーによる100%エネルギー供給)を示しています。
デンマークの「温暖化対策税」の概要
参考:諸外国における炭素税等の導入状況|環境省資料
税の形態 CO2税(1992年に導入) 課税対象 化石燃料(石炭、石油、ガス)及び廃棄物の消費に対 し課税(電力は除く)。 減免措置 EU-ETS対象企業及びバイオ燃料は免税。 税収の使徒 一般会計に入り、使途の紐づけは行われていない。
スイスにおける炭素税の取り組み
スイスでは、2008年にCO2排出削減を目的に、輸送用燃料を除く部門に対して12スイス・フラン/tCO2(約1,400円)の炭素税を導入し、その後、段階的な税率の引き上げによって2017年時点で導入当初の7倍の税率になっています。
スイスは温室効果ガスの排出量を2030年までに半減(1990年比)することを目標に掲げており、世界に先駆けてペルーとパリ協定に基づく国際的なカーボンオフセット協定を締結しました。
スイスの「温暖化対策税」の概要
参考:諸外国における炭素税等の導入状況|環境省資料
税の形態 炭素税(2008年に導入) 課税対象 暖房用、発電用の化石燃料消費に対し課税(石油、 天然ガス、石炭、石油コークス、その他化石燃料)。 減免措置
- エネルギー多消費型産業に2種類の軽減措置
- 免税の上、(大企業)国内ETS参加、(中小企業) 法的拘束力のある削減の約束。約2,000社が対象。
- 自主協定、目標は自社で設定。約3,000社が対象。
税収の使徒
- 一般会計に入り、税収相当分を以下に充当
- 建築物改装基金及び一部技術革新ファンド
- 医療保険会社を介して全国民に均等に還付
- 労働者の年金支払額に応じた額を企業に還付
(※) ①が税収の1/3程度、②③が税収の2/3程度
アイルランドにおける炭素税の取り組み
アイルランドは、リーマンショック後の経済危機からの再建を目指し、法人税・所得税以外からの税収確保として、2010年に石油・天然ガスを対象として炭素税を導入、2013年には石炭への課税を開始しました。
アイルランドでは、パリ協定に基づき2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を80%から95%削減することを目標に掲げています。
国際エネルギー機関(IEA)によると、アイルランドのエネルギー自給率は、2017年には全発電量の約25%を風力発電でまかない、風力・太陽光発電の65%を電力安全保証上のリスクなく取り込める状態であり、この水準は世界最高水準です。
しかし、同年の全体発電量の70%は依然として化石燃料が担っており、また住宅のエネルギー需要の3分の2を占める暖房は90%以上が化石燃料を使用している問題を抱えていることを指摘しています。今後エネルギー消費の増加が見込まれるなか、目標達成のため炭素税の改正とインフラ投資の促進を提言しています。
アイルランドの「温暖化対策税」の概要
参考:諸外国における炭素税等の導入状況|環境省資料
税の形態 炭素税(2010年に導入) 課税対象 化石燃料消費に対し課税。 減免措置 ETS対象産業、発電用燃料、化学、冶金・鉱物製造工程等の産業プロセスに使用される燃料、農業用軽油、バイオ燃料(運輸)、CHP(産業・業務)等は免税。 税収の使徒 一般会計。財政の健全化に寄与。(政府債務の対GDP比は2006年以降毎年ほぼ倍増していたが、2011年以降の増加率は毎年10%以下に減少。)
フランスにおける炭素税の取り組み
フランスでは、2014年に化石燃料に係る内国消費税を炭素部分とその他部分に組み替える形で炭素税を導入し、その税収を産業の競争力確保・雇用促進のための税控除など、労働コスト軽減に充当しつつ、段階的な税率の引き上げを行っています。
導入当初の税率7ユーロ/tCO2(約910円)から2030年までには100ユーロ/tCO2(約13,000円)まで引き上げることを発表しています。(2020年では56ユーロ/tCO2 約7,300円)
フランスは、パリ協定に基づき2050年度までに温室効果ガスの排出量を75%削減(1990年比)を目標として掲げており、カーボンバジェット(炭素予算)を設定しCO2削減を図っています。
フランス国内では、一般家庭におけるおもに石油製品の消費にあたり課税されるエネルギー製品の国内消費税(TICE)、電力最終消費税(TCFE)、天然ガス消費、内国消費税などの税金が設けられており、さらに一般消費税も石油製品には課税されています。
しかし、2018年の「黄色いベスト運動」によって炭素税の引き上げに国民から強い反発が生じ、2018年以降は税額が据え置きとなっています。
フランスの「温暖化対策税」の概要
参考:諸外国における炭素税等の導入状況|環境省資料
税の形態 炭素税(2014年に導入) 課税対象 化石燃料消費に対し課税。 減免措置
- バイオ燃料に軽減措置。
- ジェット燃料、ブタン、プロパンは免税。
- EU-ETS対象企業は非課税。
税収の使徒 競争力確保・雇用促進のための法人税控除や輸送関 係のインフラ整備の財源、そして再エネ電力普及支援 等のエネルギー移行に資するプロジェクトに充当。
自家消費型太陽光発電による企業の脱炭素
日々、電気(エネルギー)を大量に使用している製造業などでは、温室効果ガスの排出抑制に繋がる自家消費型太陽光発電など再生可能エネルギーによる電力調達が広がっています。
通常、電力会社から購入している電気は火力発電(化石燃料)によるものが多くを占めています。そのため、多くの電気やエネルギーを消費する製造業を中心に、温室効果ガスの排出抑制に繋がる「自家消費型太陽光発電」が注目されています。
業務で使用する電気の一部を太陽光発電(再生可能エネルギー)によってまかなうことで、発電量に応じたCO2削減効果に寄与します。
二酸化炭素排出量の削減はもちろん、コスト削減や、サステナブルブランディングという観点からも、多くの企業が自家消費型太陽光発電による再エネ調達に舵を切っています。また、政府による再生可能エネルギーの普及に対する積極的な姿勢もあり、民間事業者の再エネ導入を支援する補助金も用意されています。
まとめ
炭素税は、地球温暖化対策の取り組みとして必要となる制度です。
欧州などの環境先進国では、環境保全を目的とした炭素税を利用して経済成長に繋げています。日本でも新たに炭素税の導入が検討されており、政府の「2050年カーボンニュートラル宣言」など脱炭素への移行が本格的に始動しています。
また、ESG投資家の登場やSDGsの認知拡大などの社会の潮流から、環境負荷に対して影響度が高い業種・企業においては、気候変動に対策を講じる経営方針が求められる時代に移行しつつあります。
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