ホテル・旅館では顧客満足度を高めることが最重要ですが、コスト削減の観点から省エネを心がけることも重要な経営課題のひとつといえます。
この記事では、ホテル・旅館の電気使用の傾向をまとめ、具体的な省エネ施策と実施事例を説明します。また、企業の省エネ・コスト削減に繋がる太陽光発電との相性についても解説します。
目次
ホテル・旅館のエネルギー使用傾向
財団法人「省エネルギーセンター」の調査によると、延床面積70,000㎡規模のホテルでの消費電力のうち、照明・コンセントが22.4%(コンセント7.7%、照明14.7%)、給湯が9.9%となっています。
また、月ごとや時間別でエネルギー消費量が大きく変動するという特徴があります。
たとえば、冷房による消費電力は7月・8月、暖房は12月・1月がピークとなりますが、給湯による消費は年間を通じて一定量です。
その給湯負荷の24時間の内訳では、ピークは22時前後ですが、次に多いのは7時から10時であり、夜と朝の2回に使用量が大きい時間帯があります。
(参照元:ホテルの省エネルギー|財団法人/省エネルギーセンター)
使用量が多い部門
ホテルといってもさまざまなタイプがあり、どの部門の消費電力が多いかはそのタイプによって異なります。
たとえば、総合ホテルでは宴会場や飲食店、パブリックスペースの照明や空調による消費が多くなります。一方、リゾートホテルや温泉旅館ではパブリックスペースの照明や空調に加え、大浴場やプールの給湯用に多くの電気が使われています。
また、各部門の電気使用量や使用時間帯にも違いがあります。ロビーや廊下などのパブリックスペースでは、24時間照明や空調の稼働が必要ですが、使用量は他の部門と比べて多くありません。
逆に宴会場・飲食店・遊技場などは、使用時間帯は10時から22時などの半日程度に限られているものの、消費量は多い部門です。
ホテル・旅館で省エネ対策をする必要性
2020年に政府は、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。そのため、社会全体で温暖化対策に取り組む姿勢が高まっており、省エネ対策を行うことはどの業界においても重要な経営課題といえます。
また、ホテル・旅館が省エネに取り組むことは法的にも求められる取り組みです。オイルショックをきっかけとして1979年に成立した省エネ法では、ホテル・旅館を含む事業者に年平均1%以上の省エネを行うことを求めています。
そして、ホテル・旅館はコスト削減のためにも省エネに取り組むべきです。経費のうちもっとも大きな割合を占めているのは人件費(44.3%)であり、2番目が水道光熱費などの業務費(19.9%)です。
ホテルは顧客満足を最優先すべきで、人件費を安易に減らすことはできないため、コスト削減のためには光熱費にフォーカスすべきだといえます。
(参照元:令和4年度 営業状況等統計調査(令和3年度財務諸表より)|日本旅館協会)
ホテル・旅館で省エネ対策
ホテル・旅館は顧客満足を優先しつつも、どのようにして省エネ対策に取り組めるのでしょうか? どのタイプのホテルにも共通する3つのポイントを取り上げます。
照明機器の見直し・管理
ホテル・旅館の電力消費のほとんどが宿泊客によるものだと考えがちですが、スタッフによる客室清掃時のエネルギー消費も見過ごせません。
客室清掃は通常、宿泊客のチェックアウトから次の宿泊客チェックインまでの昼間の時間に行われるため、カーテンを開き自然採光の利用を基本とし、バスルームなどの暗いスペースのみ点灯するようにしましょう。
また、ロビーや廊下などパブリックスペースでは常時点灯が必要ですが、LEDに切り替えることにより、大幅なコスト削減が見込めます。
LEDは白熱電球に比べ消費電力が約9割少ない製品もあるため、パブリックスペースが広ければ広いほど、また点灯時間が長ければ長いほど、毎月のコストに大きな違いが生まれます。
さらに、宴会場の照明管理にも注意が必要です。宴会場には一般照明に加え、電力消費の多いシャンデリアなどの演出照明が設置されています。スタッフによる片付けや準備の際には、必要最低限の一般照明を用いることで省エネ対策が可能です。
空調設備の見直し・管理
空調設備に関しても、客室清掃時やバックヤードでの使用についてはマニュアルなどにより省エネを徹底しましょう。
たとえば、客室のエアコンを停止しても外調機による空調が行われているため、スタッフが不快な環境で作業をすることにはなりません。
この外調機の温度設定は、必要以上に冷却加熱するとエネルギー消費が高まるため、外気の状態を考慮し、適切な管理をすることが大切です。
また、厨房給排気のバランスを理想状態に保つためにも、必要以上に排気ファンを運転しないことが基本です。
加えて、宴会場の空調設備も、運転方法や温度設定により大きなエネルギーロスを生む可能性があるため、状況に応じた管理や定期的な保守点検を行いましょう。
給湯設備の見直し・管理
宿泊客にも過度な節水を求めるわけにはいかないため、給湯設備における省エネのポイントは従業員の意識を高め、事務所や厨房などでの節水や給湯温度を低下を徹底することです。
もし、給湯設備そのものが老朽化しており、稼働効率が低下しているようなら、設備の交換が有効です。20年程度以前の旧式のボイラーに比べ、潜熱回収ボイラーは稼働効率が15%程度向上するといわれており、大きな効果を期待できます。
ホテル・旅館の規模が大きい場合、CO2をヒートポンプの冷媒として活用し、大気から熱を回収してお湯を沸かすCO2冷媒ヒートポンプ給湯器の採用も考えられます。初期費用はかかりますが、長期的には大きな省エネ効果をもたらすでしょう。
総括したエネルギー管理に使える装置
ホテル・旅館の従業員の省エネ意識だけでは省エネ効果に限界があります。より劇的な変化を望むのであれば、設備の管理やコントロールに目を向けるべきです。
そして、その分野の改善には、エネルギー消費を「見える化」して、現状を把握することから始めなければなりません。
エネルギーマネジメントシステム(EMS)
エネルギーマネジメントシステム(EMS)とは、施設内のエネルギー使用状況を「見える化」して、エネルギー使用状況を把握・管理し最適化を図れるシステムのことです。
ホテルや旅館の規模が大きくなればなるほど、目に見えない電力がどこでどのように使用されているのかを正確に把握することは困難です。
EMSは情報通信技術を用いて、電力がどこで無駄に消費されているのかを見極めます。EMSにもさまざまなシステムがあるため、ホテルの規模やタイプに応じて適切な方法を導入することが大切です。
ホテル・旅館の省エネ事例
ホテル・旅館の省エネはまず従業員の意識改革を行い、日頃の業務改善からスタートしますが、長期的にみると省エネ設備の導入や建物自体のZEB化も視野に入れるべきことがわかります。具体的な事例からその点を見ていきましょう。
株式会社ホテル日航福岡
同ホテルでは顧客満足を重視するために空調の連続運転をするなど、どこで電気を使用するかは部門別に管理していたため、エネルギーの一括管理やエネルギー費用の削減はできないと捉えていました。
しかし、総合的なエネルギー管理の必要性を感じた同ホテルではEMSを導入し、エネルギー使用量を細かく管理することから始めました。
また、それを各職場単位で分析、結果を定期的に掲示し、社員の省エネ意識を高めています。結果として省エネルギー率は20.2%、年間5,700万円もの費用対効果を得ています。
リゾートトラスト株式会社
リゾートトラストグループは、国内全てのホテル拠点と管轄する全てのゴルフ場に、太陽光発電システムを導入する方針を決定しています。
2022年度以降、各拠点の設置条件に合わせて、建物の屋上や駐車場の屋根(ソーラーカーポート)などに太陽光発電システムの導入を進める予定です。
新たに着工するホテルにおいては、太陽光発電によって日中の消費電力の約80%をまかなう見込みとなっています。
(参照元:持続可能な社会の実現に向けて当社グループの国内37拠点に太陽光発電設備の設置方針を決定| PR TIMES)
太陽光発電システムでホテル・旅館を省エネ化
ホテル・旅館が他の業種と異なるのは、照明や空調設備を24時間稼働し続けており、それだけ消費電力が膨大になる点です。
太陽光発電を導入して電気を自家消費に切り替えれば、これまで電力会社から購入していた電気の割合を減らし、大幅な電気代削減に繋がります。
災害対策・優遇税制など多数のメリットがある
太陽光発電のメリットはコスト削減だけではありません。災害の多い日本では、どの業種もBCP(事業継続計画)を策定し、災害発生時にどのように被害を最小限に抑え、事業を復旧できるかを考えておく必要があります。
ホテル・旅館において太陽光発電システムと蓄電池を併用しておけば、停電が発生しても事務所など一部の電力をまかなうことができます。
また、太陽光発電の導入では、中小企業経営強化税制などの税制優遇を適用できるケースがあります。これにより、設備投資に伴う法人税の節税ができます。
建物のZEB化を目指す
ZEBとは、「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」のことであり、自然エネルギーの利用と高効率設備の導入により、建物内の消費エネルギーの最小化を目指した建築物のことです。
温暖化対策が社会的に求められる昨今では、建物のZEB化は不動産価値の向上にも繋がります。前述したように再生可能エネルギーの導入により、災害時の事業継続性も高まります。
駐車場や施設内の空き地を活かせる
企業向け太陽光発電は、建物の屋根上に太陽光パネルを設置するパターンが一般的です。その点、ホテルや旅館の屋根は入り組んだ形になっているケースも多く、太陽光発電の導入が難しいという課題があります。
そのような場合は、駐車場や施設内の空きスペースを活かして太陽光発電システムを導入するという方法があります。
ソーラーカーポート
駐車場のスペースを活かして太陽光パネル付きのカーポート(ソーラーカーポート)を設置する方法です。
発電した電気は建物に供給できるため、その電気をホテル・旅館で使用すれば電気代削減やCO2排出削減に繋がります。
また、発電した電気を電気自動車やEV充電設備に供給することも可能ですので、電気自動車ユーザーが増加するにつれて、満足度向上にも繋がる可能性があります。
敷地内の空き地への設置
敷地内の空き地や所有している土地に太陽光発電システムを導入し、発電した電気を建物に供給することも可能です。
屋根設置型の太陽光発電に比べて工事費が安く済むため、もし活用できていないスペースがあれば、十分検討に値するでしょう。
また、広い土地を持っている場合は、遠隔地の太陽光発電所で発電した電気を自社の建物に送る「自己託送」という方法もあります。
自己託送は送電線をつたって電気を送るための料金が高く、導入件数が限られていましたが、2023年9月時点ではスキームが整ってきたことで、以前より採算が見込みやすくなっています。
まとめ
ホテルや旅館が顧客と直接触れ合い、そのニーズに寄り添う業種である以上、省エネについては今後ますます考慮に入れていかなければなりません。
すぐに高効率の設備の導入や建物のZEB化ができるわけではないと思いますが、エネルギー消費の見える化などを行い、従業員の省エネ意識を高めるようにしたいところです。
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