省エネ法では、工場や輸送、建築物など、あらゆる分野においてエネルギーに関するルールや制限などを定めています。2018年に改正・施行されているため、改正内容の確認が必要です。ここでは、省エネ法の規制対象や省エネ法改正の内容について詳しく解説します。
省エネ法は2023年4月から、さらに改正・施行される予定ですので、その内容についてもわかりやすく解説します。
目次
省エネ法とは
省エネ法は「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」の略称で、1979年に制定されました。省エネ法の目的は、燃料や熱、電気など、燃料資源を有効利用することです。
エネルギーの合理的な利用により無駄な消費を抑え、国民経済の健全な発展を促す狙いがあります。現行の省エネ法の対象となるエネルギーの種類、規制する分野について詳しくみていきましょう。
対象となるエネルギーは燃料・熱・電気の3種類
対象となるエネルギーは、燃料・熱・電気で、具体的には以下のとおりです。
(※2022年7月時点)
- 燃料
- 原油やガソリン、重油、灯油、石油アスファルト、石油ガス、可燃性天然ガス、石炭及びコークス、燃料電池の発電に使用する石炭製品などが該当します。
- 熱
- 上記の「燃料」を熱源とする蒸気や温水、冷水などが該当します。太陽熱や地熱など、燃料を使用せずに発する熱は含まれません。
- 電気
- 上記の「燃料」を起源とする電気が該当します。太陽光発電や風力発電、廃棄物発電など、燃料を使用せずに発生する電気は含まれません。
対象となるエネルギーのうち、電気に関しては再生可能エネルギー発電を導入することで対策が可能です。再生可能エネルギーについては、以下の記事で詳しく解説していますので、こちらもぜひご覧ください。
省エネ法が規制する分野
省エネ法は、工場・事業場、運輸分野を規制します。
工場の設置者や輸送事業者・荷主に対して、省エネの取り組み方の基準を示すほか、一定以上のエネルギー使用量の事業者にエネルギー使用状況の報告を義務付けています。
さらに、省エネ法に基づく取り組みが不十分な場合は、指導や助言を行うほか、合理化計画の作成を指示する場合があります。
また、エネルギーを使用する者に対して間接的に規制するために、自動車や家電製品、建材などの製造または輸入を行う事業者に対して、エネルギー消費効率の目標を提示しています。
エネルギー消費効率の目標を達成できない場合には、勧告を受けます。
- 省エネ法は、エネルギー使用量の多い工場・事業場・運輸分野が対象
- 対象企業は、省エネの取り組みや、エネルギー使用状況の報告が義務付けられている
- 取り組みが不十分な場合は、指導・助言・勧告を受ける
改正省エネ法(2018年)の概要
省エネ法は、第196回通常国会で成立し、2018年6月13日に交付、2018年12月1日に施行されました。改正省エネ法で規制される事業者と、事業者に課せられる義務について詳しくみていきましょう。
改正省エネ法(2018年)の対象になる事業者
改正省エネ法の対象になる事業者は、工場・事業場と運輸分野です。対象となる要件について詳しく解説します。
工場などに係る措置の対象者
工場などに係る措置の対象者は、「特定事業者」と「特定連鎖化事業者」に分類されます。。
- 特定事業者
- 全体のエネルギー使用量が原油換算で1,500kl/年度以上の事業者
- 特定連鎖化事業者
- 「本部」「約款等に経済産業省令が定める内容が記載されている加盟店」のエネルギー使用量が合計1,500kl/年度以上のフランチャイズチェーン事業者
たとえば、AからE加盟店のうち、AからCの加盟店の約款に経済産業省令が定める内容が記載されており、DとEの加盟店の約款には記載されていない場合、AからCの加盟店と本部のエネルギー使用量の合算値を算出します。
運輸などに係る措置の対象者
運輸などに係る措置の対象者は、「特定(貨物・旅客)輸送事業者」と「特定荷主」です。
特定(貨物・旅客)輸送事業者は、輸送区分ごとに保有する輸送能力が下記を超える事業者が該当します。
- 鉄道300両
- トラックとバス200台
- タクシー350台
- 船舶2万総トン
- 航空9,000トン
特定荷主は、自らの事業で発生した貨物の輸送量が3,000万キロトン/年度以上の事業者のうち、「貨物を貨物輸送事業者に継続して輸送させている」という条件を満たす事業者のことです。
改正省エネ法における事業者の義務
特定事業者と特定連鎖化事業者に課せられる義務は次のとおりです。
- エネルギー管理統括者及びエネルギー管理企画推進者の選任
- エネルギー使用状況届出書、エネルギー管理統括者等の選解任届出書、定期報告書及び中長期計画書の提出
- 判断基準に定めた措置の実践(管理標準の設定、省エネ措置の実施等)
- 指針に定めた措置の実践(燃料転換、稼動時間の変更等)
また、特定事業者と特定連鎖化事業者の中でも、エネルギー使用量が3,000kl/年度以上の工場・事業場が「第一種エネルギー指定管理工場等」、1,500から3,000kl/年度の工場・事業場は「第二種エネルギー指定管理工場等」に指定されます。
第一種エネルギー管理指定工場等のうち、鉱業・製造業・電気供給業・ガス供給業・熱供給業の工場には「エネルギー管理者」、これら以外の業種と第二種エネルギー管理指定工場等には「エネルギー管理員」の専任が義務付けられています。
さらに、第一種・第二種エネルギー管理指定工場等は、定期報告書を提出する必要があります。
書類ごとの提出期限に注意
提出書類の種類は非常に多く、それぞれ提出期限が異なります。提出書類と提出期限は次のとおりです。
エネルギー使用状況届出書 | 5月末日 |
---|---|
特定事業者(特定連鎖化事業者)指定取消申出書 | 随時 |
第一種(第二種)エネルギー管理指定工場等指定取消申出書 | 随時 |
エネルギー管理統括者(企画推進者)選任・解任届出書 | 事由発生日以降の7月末日 |
エネルギー管理者(管理員)選任・解任届出書 | 事由発生日以降の7月末日 |
中長期計画書 | 毎年7月末日 |
定期報告書 | 毎年7月末日 |
書類を期限までに提出できなかった場合は勧告を受ける恐れがありますので、余裕をもって準備をしましょう。
改正省エネ法の4つのポイント
改正省エネ法では、合計4つのポイントが追加・変更されています。それぞれ詳しくみていきましょう。
連携省エネルギー計画の認定
改正前は、エネルギー使用の状況等を企業単位で報告していたため、取引のある企業間で連携して省エネに取り組んでも、効果が正しく評価されませんでした。
効果が適切に評価されない場合、エネルギー使用の目標を達成できていないと判断されて、指導・助言・勧告を受ける恐れがあります。
改正省エネ法では、企業間の連携による省エネ量を企業間で分配して報告できるようになっています。
また、国は「連携による省エネ取り組みの効果」を適切に評価できるようになったと同時に、「取り組み事例の収集と公開」が可能になりました。
取り組み事例の公開によって、企業間での連携方法をイメージしやすくなるため、連携省エネルギー計画を推進する企業の増加が期待できます。
認定管理統括事業者の認定
改正前は、「定期報告・中長期計画の提出」が全ての特定事業者等に義務付けられていましたが、改正後は認定管理統轄事業者が一体的に提出できるようになりました。
書類提出の手間が軽減されたため、省エネに取り組みやすくなったといえるでしょう。
また、「エネルギー管理統括者等の専任」は全ての特定事業者等で専任が必要でしたが、改正後は認定管理統轄事業者においてのみの専任でよいことになりました。
ただし、エネルギー管理者とエネルギー管理員は、従来どおりエネルギー管理指定工場等ごとに専任が必要です。
荷主の定義の見直しと準荷主の位置づけ
改正前における荷主と、荷受け側の位置づけは次のとおりです。
- 荷主
- 貨物の所有者
- 荷受け側
- 省エネ法における位置づけなし
改正後は下記のように位置づけされました。
- 荷主
- 契約等で日時や場所、輸送方法などを決定する者(ネット小売事業者等も省エネ法の対象。ただし、貨物輸送事業者との契約がなく、輸送方法等を定めていないモール事業者等は対象外)
- 荷受け側
- 準荷主の位置づけとなり、省エネへの協力が求められる
中長期計画の提出頻度の軽減
中長期計画は毎年7月末の提出が必要です。改正省エネ法では、直近過去2年度以上連続で事業者クラス分け評価制度におけるS評価を得ており、翌年以降S評価を継続している間は、5年を上限として中長期計画の提出が免除されます。
一度でもAクラス以下の評価になった場合は、従来どおり毎年7月末に中長期計画を提出しなければなりません。
また、どれだけAクラスの期間が長くても、直近過去2年以上S評価を得ていれば、免除の対象となります。
【追記】2023年4月より、省エネ法がさらに改正される予定
政府は、省エネ法をさらに改正し、国内の約12,000社に、CO2を排出しないエネルギーの導入目標の策定を義務付ける方針を固めています。
対象になるのは、現行の省エネ法と同じで、エネルギーの使用量が原油換算で1,500kl/年以上の企業です。
2023年の4月に施行することが予定されています。改正後の省エネ法の内容のイメージは以下のとおりです。
- 対象企業
- エネルギー使用量が原油換算で1,500kl/年を超える企業(国内で約12,000社)
- 内容
- 再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力)など、CO2を排出しないエネルギーの導入目標を年に1回提出する(2023年春にも施行の可能性)
- 規制対象となった場合の罰則など
- 取り組みが不十分な場合は国が立ち入り検査や指導を行なう。それでも改善しなければ、罰金や企業名の公表も
現行の省エネ法との大きな違いは、再生可能エネルギーの具体的な目標使用割合が求められることです。
現行の省エネ法では、再生可能エネルギーの目標使用割合は求められていませんでした。具体的に数値化しなければならないとなると、再生可能エネルギーの活用と脱炭素に向けて、さまざまな企業が取り組みを進めるでしょう。
2023年の省エネ法改正における見直しポイント
改正後の省エネ法の主な見直しポイントを紹介します。
1. エネルギーの定義見直し
現行の省エネ法では、化石エネルギー(燃料・熱・電気)を対象としていますが、変更後は非化石エネルギーも対象となります。
簡単にいえば、改正後は「再生可能エネルギーの電気であっても、無駄遣いするのはやめましょう」という考え方になります。
2. 非化石エネルギーへの転換
現行の省エネ法では、非化石エネルギーへの転換に関しては一部の企業の自主性に委ねられる状況です。しかし、今後は産業界全体で非化石エネルギーへの転換を目指していく必要があると考えられています。
そこで、改正後の省エネ法では、特定事業者に対して、非化石エネルギー使用割合の向上に関する中長期計画の作成や、非化石エネルギー使用状況の定期報告が求められるようになります。
3. 電気の受給状況最適化
現行の省エネ法では、昼間の電気使用を抑え、できるだけ夜に使用する「ピークシフト」を電気使用者に求めていました。しかし、自然エネルギー、とりわけ太陽光は発電量が時間によって変化します。そこで、再エネ電気を使う時間帯を柔軟に変えることで、電力の受給状況のバランスをとる必要があると考えられています。
そこで、改正後の省エネ法では、以下の方向性がとられる予定です。
- 再エネ電力の割合が多い事業者は昼間にできるだけ再エネを使用し、再エネ割合が少ない事業者はできるだけ夜に電気を使う
- 供給サイド(電気を売る側)にも、需給バランスの最適化に繋がる料金体系を作るための仕組み(デマンドレスポンス)を提供する
まとめ
省エネ法の対象事業者は、改正省エネ法の内容を踏まえて、関係各所へ適切に書類の提出や報告を行いましょう。
改正省エネ法には、規制の対象事業者の負担を軽減する内容が盛り込まれています。
今後も改正によって、さらに事業者の負担が軽減され、省エネに対して積極的に取り組めるようになることが期待されています。
省エネと関連の高い太陽光発電
企業の省エネの効果的な取り組みの1つが「太陽光発電」です。
太陽光発電の電気を企業が自ら使用する「自家消費」によって、消費エネルギーを抑えたり、自社のCO2排出量を削減したりなどの効果が得られます。
太陽光設置お任せ隊(運営:株式会社ハウスプロデュース)では、省エネの取り組みの1つである「自家消費型太陽光発電」をおすすめしております。
太陽光発電が省エネ法対策に繋がる理由について、以下のページで解説していますので、こちらもぜひご覧ください。