老人ホームや介護施設など高齢者福祉施設は、今後も需要が高まる一方で、省エネ対策が求められています。しかし、利用者が快適に過ごせる環境維持も必要となるため、どこから始めればよいのか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、電力の見える化や省エネ対策が生むメリットの紹介を始め、老人ホームと介護施設の省エネ対策について解説します。
目次
老人ホームや介護施設の省エネ対策への必要性
地球温暖化が叫ばれるなかで、省エネ対策は重要課題です。老人ホームや介護施設などの高齢者福祉施設も例外ではなく、積極的に取り組んでいる施設も増えています。
さらに日本は高齢化社会が年々進んでおり、2000年以降から75歳以上の人口が大幅に増加。2035年頃まで増え続けると予測されているため、高齢者福祉施設の需要は今後も高まります。
高齢者福祉施設はいくつか種類がありますが、どんな施設でも利用者が快適に過ごせることが大切です。空調や照明、給湯などのエネルギー使用は止められないので、省エネ対策を検討すべきです。
物価高や電気代高騰への対策が重要になっている
介護施設では感染症の予防などの物資を購入する必要があるうえ、2022年はウクライナ情勢や円安などで、電気代・食料費の負担増加が追い打ちをかけている状況です。
施設の運営においては利用者の体調が第一であるため、空調の使用を控えるわけにもいきません。
一方で、高齢者施設や介護施設のサービス利用料は、介護保険制度に基づいて設定されており、施設の判断による値上げが難しいという側面があります。
こまめな消灯などの取り組みだけでは効果に限界があります。そのため日ごろの節電の取り組みに加えて設備更新など含めた省エネ対策を検討することが施設の運営において大切になります。
老人ホームや介護施設における省エネのメリット
経費削減ができる
省エネ化は二酸化炭素の排出を抑えるだけではなく、経費削減にも繋がります。たとえば省エネ設備の導入と適切な運用を行えば光熱費の削減となり、浮いた経費を他へ回せます。一般的な施設より省エネ設備の初期費用が高いケースもありますが、長期的な視点でみればランニングコスト削減により導入資金の回収が可能です。
CO2削減によるイメージ向上や人材確保
高齢者の増加に伴い、介護職員の不足など福祉施設業界の課題は厳しい状況が続くとみられています。そんななかで給与アップ・設備の導入や改修・労働環境改善などの取り組みはもちろん大切ですが、さらに環境面の取り組みが他の企業・施設との差別化に繋がります。
実際、最近ではSDGs・CSR・ESGなど他社と違う取り組みを行う企業に興味を持ち、応募を検討する求職者が増える傾向があります。
人材確保という面でも、他社と同じ事業展開ではなく、省エネによるCO2排出削減に目を向けることは今の時代に合っているかもしれません。
断熱性能による快適化が期待できる
高齢者のなかには温度差を苦手とする方や、空調の風が直接肌に当たるのを嫌う方もいます。そのため、建物自体の断熱性能を向上させれば光熱費の削減とともに、夏は涼しく冬は暖かい環境が維持しやすくなります。
利用者にとっての快適な室温へ調節しやすくなるほか、カビやダニ発生の原因となる結露減少、遮音性機能の向上などの効果も見込めます。
防災・停電対策の機能が備えられる
自立運転機能付きの太陽光発電は、停電が起きても日中であれば発電し、施設の消費電力の一部をまかなうことができます。また、水蓄熱式ヒートポンプは、常に数百トンの水を蓄えているため、非常時でも生活水を供給できます。
こういった設備の機能を活かして、非常時の防災拠点として地域に貢献している施設もあります。
老人ホーム・介護施設で行える省エネ・電気代削減対策
介護施設の電気代削減アイデア:日常の行動
高い省エネ効果は見込めませんが、従業員の省エネ意識を高め、無駄な電力消費をへらす対策が大切です。
スタッフによる意見交換の場を設ける
生活動線の見直しや不要な電気は消すなど、普段の行動も大切です。
たとえばアラーム機能がついているスマートメーターを付けている場合、その場しのぎではなく「なぜアラームが鳴るのか」といった根本的な原因を明らかにして改善策をたてる必要があります。
数字だけを見るのではなく、「何時から何時までは会議室の空調や電気は不要」「仕切りを設けた方が冷暖房の効率が良い」など、現場で働くスタッフの意見交換から改善に繋がるケースもあります。
使わないときは照明をオフにする
基本的な省エネ対策ですが、照明を使用していない際にこまめにオフすることは、職員の節電意識を高めるうえでも有効です。
取り組む際は、職員全体でルールとして決めて取り組むことが大切になります。
また、日光が差し込む場所などは照明の数を減らす方法もあります。 いずれも利用者の利便性を損なわない範囲で取り組んでいくべきでしょう。
介護施設の電気代削減アイデア:照明
介護施設では長時間、照明を点けておく必要があるため、照明の省エネが効果を発揮しやすいケースが多いです。比較的簡易に導入できる方法を解説します。
照明をLEDに変更する
施設内の照明をLEDに変更することで電気代削減に繋がります。
白熱電球の寿命が1,000時間から2,000時間程度であるのに対し、LEDは4万時間以上の長寿命といわれています。
また、LEDは消費電力が少なく、白熱電球の6分の1以下、蛍光灯の2分の1以下程度になります。
かつてはLEDの導入費用は高かったですが、低価格化が進んでいるため長期的にみればコスト削減に繋がるでしょう。
人感センサー照明を導入
利用頻度が低い場所や短時間しか利用しない場所は、人感センサー照明を導入することで無駄な消費電力を削減できます。
センサーは人がいないときに消灯するタイプと、明るさを下げるタイプがあるので、場所の用途を考慮してタイプを選びましょう。
介護施設の電気代削減アイデア:空調
介護施設では、利用者やスタッフが快適に過ごせるよう、空調をストップするわけにはいきません。そのうえで省エネ対策を行うアイデアを紹介します。
グリーンカーテンで室内温度の上昇を抑制
グリーンカーテンは、植物を窓の外側で育て、日差しを防ぐ方法です。
グリーンカーテンによって窓から入る日差しを遮ったり、気化熱の効果を発揮したりして室内温度の上昇を抑制します。
育つまでに時間がかかる・外が見えにくいなどのデメリットがありますが、種まきや水やりを利用者と行うなど、施設の活動の一環として取り入れるのも1つの手です。
エアコンの温度を適切に設定する
エアコンの温度設定を1℃変えれば、冷房で約13%・暖房で約10%の消費電力量削減に繋がるといわれています。
可能であれば、必要以上に強く空調しないよう調節することで省エネに繋がります。
エアコンの推奨設定温度は夏28℃・冬20℃とされていますが、利用者・スタッフが快適に過ごせるよう、実際の室内の温度もチェックしながら調整し運転することをおすすめします。
扇風機・サーキュレーターを活用する
エアコンの冷暖房の効率を上げるため、扇風機やサーキュレーターを使用する方法もあります。
エアコンから出た冷たい空気は下に、暖かい空気は上に留まる性質があります。
扇風機やサーキュレーターによって空気を循環させ、部屋全体の温度をできるだけ均一にすれば、必要以上にエアコンを強く運転しなくても快適度を上げられます。
エアコンのメンテナンスを行う
エアコンの定期的な清掃によって空調効率を保つことも効果的です。
フィルターがほこりなどで詰まると、より強く運転することで空調しようとするため、電気代が高くなります。
室内側のフィルターは月に1度を目安に清掃することをおすすめします。室外機も汚れていると効率が低下するため、2年から3年に1度は業者にメンテナンスを依頼するとよいでしょう。
エアコン設備の更新
新しい設備は導入コストがかかるため足踏みしがちですが、古い設備は新型と比べて消費電力が高めです。
たとえばエアコンひとつとっても、2005年型のエアコンと比べて2015年型では約9%の省エネ効果があるとされています。そのまま稼働を続ければ消費電力はもちろん、突然の故障も懸念されますので、一定期間ごとに省エネ設備の導入を検討しましょう。
画像引用:環境省|高齢者福祉施設における省エネ・低炭素化の取組
介護施設の電気代削減アイデア:設備
介護施設に設備投資をすることで、長期的な省エネ対策を行う方法です。初期費用はかかりますが、高い省エネ効果が見込めます。
エネルギー管理で電力の「見える化」
エネルギー管理を行ううえで大切なのが、電力の「見える化」です。「いつ・どこで・どれだけ」のエネルギーが使われているか把握しなければ、取り組むべきポイントが見えてきません。見える化を行うには、スマートメーターやBEMS(ベムス)などの導入・活用がおすすめです。
- スマートメーター:30分ごとの電気使用量を計測し、電力会社へデータ送信するシステムです。あらかじめ設定した電気使用量の数値に近づくと、使いすぎ防止のためのアラームが鳴るタイプもあります。
- BEMS(ベムス):「ビル・エネルギー管理システム」といわれ、建物内のエネルギー使用量や運転状況を把握し、監視や制御を行います。スマートメーターと連動すれば詳細なエネルギー管理ができます。
最大デマンド値をコントロール
デマンド値とは30分間に使用された電力の平均値で、最も数字が高かった30分を最大デマンド値と呼びます。過去1年間計測された最大デマンド値で電気の基本料金が決定されるため、数字が高ければ高いほど基本料金も上がります。
たとえば猛暑日にエアコンを一斉稼働すれば、短時間で急激にデマンド値が跳ね上がります。そのため、省エネと光熱費の削減を行うには、最大デマンド値のコントロールが重要です。
省エネ設備・スマートメーター・太陽光発電と蓄電池の併設などで最大デマンド値を抑えれば、電気の基本料金も低くなります。
省エネ効果の高い断熱の実施
断熱材の配置や、断熱効果のある複層ガラスの導入も省エネ効果に繋がります。
- 断熱材:柱と構造材の間に充填する内断熱、建築物の構造体に断熱材を入れ外気から遮断する外断熱、床から熱が逃げないようにする床断熱など、さまざまな種類があるため、設備に適したものを導入する必要があります。
- 複層ガラス:2枚のガラスの間に、乾燥空気や真空層を盛り込んで断熱効果を高めたものです。製品によっては断熱と遮熱効果を持ち合わせたものもあり、冷房効果が上がります。
その他、大掛かりな工事が難しい場合には、日射調整フィルムを貼るだけで太陽の光をカットさせる方法もあります。
冷蔵庫の更新・修繕
介護施設内に厨房がある場合、冷蔵庫の電気代を見直す方法もあります。
冷蔵庫が古い場合は、新しい製品に更新することが1つの方法です。メーカーにもよりますが、2005年発売の冷蔵庫と2021年発売の冷蔵庫では、同じ大きさでも年間消費電力が50%以上異なるケースもあります。
冷蔵庫の更新時期でない場合でも、点検を行い必要であればパッキンの効果が推奨されています。パッキンが緩んでいると、冷気が漏れるため余分に電力を消費します。パッキンの劣化が見られる場合は交換しましょう。
電気代削減効果が高い太陽光発電設備の導入
太陽光発電は、再生可能エネルギーの代表ともいえる設備です。建物内で使用するエネルギーを創り出す「創エネ」が可能で、光熱費削減にも繋がります。
太陽光発電設備は地域に制限はないため、太陽光が届くところであれば基本的に設置が可能。さらに自然災害で停電が起きた際に、非常用電源として利用できるため、高齢者のケアが必要な施設では、太陽光発電設備を導入していると安心です。
介護施設の省エネにおける注意点
省エネ・節電を意識するあまり、電気使用量そのものを過度に削減するのはリスクが伴います。
照明の明るさを下げすぎると、視覚機能が低下している利用者が不自由を感じたり、スタッフの作業効率が悪化したりする可能性があります。
また、空調の温度調節を過度に行うことも注意が必要です。とくに高齢者は発汗能力の低下・水分量の減少・温度変化への対応力の低下などにより、若い人に比べると熱中症・脱水症状・ヒートショックが起きやすいといわれています。
省エネ対策は介護施設の運営において大切ですが、利用者やスタッフの体調を優先したうえで取り組むべきであることを認識しておきましょう。
老人ホーム・介護施設の取組事例
多くの老人ホーム・介護施設が省エネ対策に取り組んでいます。今後、改修や建て替え、新規で建設する予定がある場合、実際の取り組み事例も参考にしてみましょう。
特別養護老人ホーム「山美家」
特別養護老人ホーム「山美家」では、建設時にイニシャルコストがかかっても環境に配慮した建物にしたいという考えから、ハイブリッド型ソーラーシステムを導入しています。
ハイブリッド型ソーラーシステムは、太陽光発電パネルの下で温められた空気を「熱」として活用できる設備で、給湯や床暖房に使用されています。
特に床暖房は施設内全体に行き渡っているため、冬場のヒートショックリスクや足元の冷えが軽減されています。また、快適な空間にもかかわらず、光熱費は周辺の施設と比べて50%程度抑えられています。
特別養護老人ホーム「瀬戸の里」
特別養護老人ホーム「瀬戸の里」ではZEB化を目指し、増築・改修工事によって創エネを含むエネルギー使用量55.9%削減させ、「ZEB Ready」に認証されています。
「ZEB Ready」は上記のZEBを見据え、高効率の断熱化や省エネ設備を取り入れた建物のことを言います。
特別養護老人ホーム「瀬戸の里」は、全面に外断熱の採用、複層ガラス、太陽熱利用システムなどを導入し、省エネと快適性の両立を実現させています。
介護福祉施設における自家消費型太陽光発電のメリット
電気代削減効果
自家消費型太陽光発電によって、施設の電気代を効率的に削減できます。
老人ホームや介護施設では入居者の体調を第一に考えなければなりません。そのため、24時間空調をコントロールするなど電気使用量が増えやすく、電気代負担が大きくなりがちです。
太陽光発電は、屋根や遊休地のスペースを活用してシステムを設置するだけで節電効果を発揮するため「空調や照明の稼働を制限せず、電気料金の負担を減らす」という2つの課題改善に繋がります。
非常用電源としての機能
自然災害などの影響で停電が発生した際、非常用電源として太陽光発電システムが役立ちます。
2019年の台風15号によって千葉県で停電が発生した際は、介護施設のエアコンが停止し室温が35℃を超え、体調を崩す入居者が出たケースがありました。
また、停電が夜間に発生した際、照明が停止すれば施設内の状態がわからず対応が遅れる恐れがあります。
太陽光発電があれば、このような状況でも空調や照明をバックアップしてくれるため、非常時の対応力向上に繋がります。
介護施設のBCP対策の一環として導入が増加
BCP対策は、災害やテロ、感染症の拡大といった有事の際に復旧および事業を継続させるための計画を指します。
2024年3月末までに、すべての介護事業者に対してBCP対策が義務化されます。
介護施設ではおもに高齢者や障害・疾患を患っている方が集団生活しているので、一般的な施設と比べて災害対策と疾病対策には気を配る必要があります。
太陽光発電は非常用電源としての機能もあるため、BCP対策における災害対策の一環として導入する施設も徐々に増えています。
断熱効果による居住環境改善
太陽光パネルを屋根全体に設置すれば、断熱性向上による室温の上下抑制に繋がります。
屋根に直射日光が当たらないため夏場の室温上昇・屋根からの放射冷却を防いで冬場の室温低下を抑えます。
これにより、入居者の生活環境が改善できるほか、空調の負荷が軽減され省エネにも繋がります。
ハウスプロデュースによる福祉施設への太陽光発電シミュレーション事例
2022年は電気代の高騰が社会的な課題となったこともあり、電気代削減効果のある太陽光発電の導入に注目が集まりました。
太陽光設置お任せ隊(運営:株式会社ハウスプロデュース)でも、老人ホームや診療所などのお客さまからのお問い合わせをいただく機会が増えています。導入イメージの一例として、老人福祉施設のお客さまに対して当社が行ったシミュレーション事例をご紹介します。
場所 | 千葉県千葉市 |
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容量 | DC / 70.38kW・AC / 59.4kW |
年間発電量 | 77,500kWh(自家消費率75%) |
年間電気代削減額 | 1,250,000円 |
CO2排出削減量 | 36,385kg-CO2 |
初期投資費用回収年数 | 約9年 |
(匿名希望のため施設名は伏せていますが、実際に当社で行ったシミュレーション数値となります)
比較的規模が大きい施設であるため、大幅な電気代削減を実現しています。また、「環境への意識が高く、非常時ための電源を備えている」というイメージ向上にも繋がっています。
福祉施設に対する支援策が出ている
省エネから少し話がそれますが、コロナ禍において電気・ガス料金を含む物資の高騰の影響を受けた事業者の負担を軽減するための支援策を設ける自治体が出てきています。一例として、千葉県松戸市の制度を紹介します。
対象事業所 | 障害福祉施設を営む事業所 |
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補助対象経費 | 2022年10月から2023年1月の間に支払があった障害福祉施設における燃料費・光熱費 |
補助金額 | 1事業所あたり最大10万円 |
(参考:障害福祉施設における原油価格物価高騰対策支援補助金|松戸市)
他の自治体でもこのような制度を設ける自治体が出てきていますので、自社の事業所がある自治体の情報をチェックしてみましょう。
まとめ
高齢化社会が進む日本では、今後も介護施設や老人ホームの需要は高まります。地球温暖化対策として企業には省エネが求められていますが、高齢者福祉施設では利用者のケアと省エネを同時に行う必要があります。
効率の良い省エネ設備や断熱材は導入コストがかかる反面、利用者にとって快適な空間を実現できます。省エネと快適な空間の両立を目指し、設備の見直しを行ってみてはいかがでしょうか。
太陽光設置お任せ隊(運営:株式会社ハウスプロデュース)では、企業向けに太陽光発電に関するご相談を承っております。導入を検討されるお客さまには、電気使用量などお伝えいただければ無料で導入効果をシミュレーションいたします。太陽光発電にご興味がある方は、まずはお気軽にお問い合わせください。