2020年10月に菅首相が、2050年までに脱炭素社会の実現を目指すと宣言したことは記憶に新しいですが、そのために欠かせないのが「ゼロエミッション」という構想です。
ゼロエミッションとはそもそもどんな考え方なのか、その実現のために経済産業省が策定した「ゼロエミ・チャレンジ」とは何なのか、国内の取り組み事例も含めて説明します。
目次
ゼロエミッションとは
「エミッション(emission)」の意味は「排出」で、「ゼロエミッション」とは、社会全体として廃棄物を出さない生産のあり方を目指す構想です。社会全体として廃棄物をゼロにするためには「3R」、つまり「ゴミを減らす(リデュース)」・「繰り返し使う(リユース)」・「再生利用する(リサイクル)」が必要です。
これらは1994年に国連大学によって提唱されましたが、日本では経済産業省と環境省がゼロエミッション政策を推進するため、1997年に「エコタウン事業」を創設しました。
また、近年では各企業とも環境に配慮した経営方針への転換を迫られているため、事業所や工場単位でゼロエミッションに取り組むところも増えてきています。
ゼロエミッション政策を推進させる「エコタウン事業」
経済産業省と環境省によって1997年に始まった「エコタウン事業」は、ゼロエミッションを推進する政策の一つです。
具体的には、まずそれぞれの地域特性に応じて各自治体はプランを作成します。環境省・経済産業省がそれを共同承認すれば、そのプランに基づき、国の総合的・多面的支援を受けながら、環境調和型経済社会の形成を目指します。
1997年度に承認を受けた北九州市・岐阜県・長野県飯田市・川崎市を皮切りに、2005年度までに26地域がエコタウン事業に参与しています。その取り組みは多種多様で、各地域が特性を生かした環境都市づくりを展開しています。
経済産業省による「ゼロエミ・チャレンジ」
脱炭素社会の実現に向けて、環境イノベーションに挑戦する企業を「ゼロエミ・チャレンジ企業」と位置づけ、2020年10月には梶山経済産業大臣から対象の企業約300社が発表されました。
具体的には、それらの企業は「革新的環境イノベーション戦略」の39テーマに取り組んだり、経団連の「チャレンジ・ゼロ」による脱炭素社会の実現に向けたイノベーションに果敢に挑戦したりしています。
ゼロエミ・チャレンジが作られた背景
ゼロエミ・チャレンジの背景にあるのは気候変動問題です。
気候変動対策における現在の国際的枠組みは2016年に発効したパリ協定ですが、日本も「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」や「統合イノベーション戦略2019」を基盤とし、2020年1月に「革新的環境イノベーション戦略」を策定しました。
そして、同年7月にはその戦略を実現するための枠組みとして「グリーンイノベーション戦略推進会議」が設置され、第一回の会議で「ゼロエミ・チャレンジ」の概要が発表されました。
ゼロエミ・チャレンジの目的
ゼロエミ・チャレンジの目的は、投資家等が投融資の際の参考情報として活用できるように、脱炭素社会の実現をイノベーションで切り拓く企業をリスト化して、その情報を提供することです。経済産業省が経団連・NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と協力して、この事業を推し進めています。
具体的な活動内容
以上の目的を達成するため、ゼロエミ・チャレンジは次の4つをおもな活動内容としています。
- 革新的環境イノベーション戦略の39テーマごとに、各企業の技術開発内容などを見える化し、企業リストを作成
- 39テーマごとに市場規模などの情報を示し、企業マッピングを実施
- 国際的な舞台で発信
- 金融機関と連携して、資金供給策を検討
参加企業は2020年10月9日時点で300社以上
前述したようにゼロエミ・チャレンジ企業リスト第一弾は2020年10月9日に発表され、2021年3月5日には一部更新の必要が生じたため企業数は修正され、325社になりました。
第一弾が発表された時点でのゼロエミ・チャレンジ企業の業種形態は製造業が160社ともっとも多く、電気・ガス・熱供給・水道業が37社、学術研究・専門・技術サービス業が33社、建設業が27社となっています。また、全体の約4分の1にあたる75社が経団連の「チャレンジ・ゼロ」にも参画していました。
ゼロエミッションのリストアップ基準となる活動内容
革新的環境イノベーション戦略
前述したようにゼロエミ・チャレンジ企業のリストアップ基準になる活動内容の一つは革新的環境イノベーションに取り組んでいることですが、国が推し進めるこの戦略の概要をみていきましょう。この戦略は以下3つの大きな柱から構成されています。
1つ目は「イノベーション・アクションプラン」であり、「エネルギー転換」、「運輸」、「産業」、「業務・家庭・その他・横断領域」、「農林水産業・吸収源」の5分野16課題において、2050年までに革新的技術の確立を目指すというものです。
2つ目は「アクセラレーションプラン」であり、革新的技術の確立のために企業単位で取り組むだけでは不十分であり、「グリーンイノベーション戦略推進会議」を司令塔とし、「ゼロエミッション国際共同研究センター」を設置することにより国内外の英知を集め、今後10年で官民合わせて30兆円の研究開発投資を行うというものです。
3つ目は「ゼロエミッション・イニシアティブズ」であり、国際会議などの定期的な開催により、革新的技術情報の共有や成果の普及促進などを継続的に行っていこうというものです。
チャレンジ・ゼロ
ゼロエミ・チャレンジ企業の、もう1つのリストアップ基準は経団連が主催する「チャレンジ・ゼロ」です。
チャレンジ・ゼロにおいて企業は「ネット・ゼロカーボン技術(トランジション技術を含む)のイノベーション」、「ネット・ゼロカーボン技術の積極的な実装・普及」、「前述2つに取り組む企業への積極的な投融資」のいずれかにチャレンジすることを宣言し、具体的なアクションを発表します。
企業はチャレンジ・ゼロに参画することにより、ESG投資を呼び込んだり、同業種・異業種・産学・政府のイノベーション戦略との連携がしやすくなったりというメリットがあります。
国内のゼロエミッション動向
味の素株式会社のゼロエミッションへ取り組み
味の素株式会社は、事業企画・研究開発・調達・生産・物流・営業・消費などのグローバルな事業活動の全分野において、独自の世界統一基準を定め、環境負荷排出のゼロ化(極小化)を図る「味の素グループ・ゼロエミッション」に取り組んでいます。
たとえば、うま味の素となるアミノ酸は、糖蜜やトウモロコシなどのデンプンを発酵させた発酵液から精製していますが、この過程で発生する「副生液」を「味の素」の原料となるサトウキビの肥料や飼料へと転換しています。
その結果、世界各地のアミノ酸発酵関連分野において副生物の資源化率は96.6%に達し、なかでも海外6カ国8工場は資源化率99%以上の「ゼロエミ工場」になっています。
東京都独自のゼロエミッション戦略
東京都は2019年5月に、世界の大都市の一つとして平均気温の上昇を1.5℃に抑えることを追求し、2050年にはCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」の実現を宣言しました。同年12月には以下3つの視点からなる「ゼロエミッション東京戦略」を作成しています。
- 気候変動を食い止める緩和策とすでに起こり始めている影響に備える適応策を総合的に展開
- 資源循環分野を本格的に気候変動対策に位置付け都外のCO2削減にも貢献
- 省エネ、再エネだけでなく、資源循環分野や自動車環境対策などあらゆる分野の取り組みを強化
おさえておきたい「パリ協定 」
以上のゼロエミッション、国内のゼロエミ・チャレンジやチャレンジ・ゼロの根底にあるのは前述したように2016年に発効した「パリ協定」です。
パリ協定は2020年以降の温室効果ガス排出削減のための国際的な枠組みであり、世界共通の長期目標として平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすることを定めています。
また、主要排出国を含むすべての国が削減目標を5年ごとに提出・更新することが求められています。
まとめ
ゼロエミッションを具体化するためのゼロエミ・チャレンジやチャレンジ・ゼロはいまや日本国内でも動き始めています。直接的に革新的イノベーションに取り組むかどうかは別にして、すべての企業は今後の経営の舵取りをする際に気候変動対策に配慮しなければならないことは確かでしょう。
太陽光設置お任せ隊(運営:株式会社ハウスプロデュース)では、企業の脱炭素経営に繋がる「太陽光発電」をおすすめしております。以下の記事で詳しく解説していますので、こちらもぜひご覧ください。