「省エネ」といっても、その方向性や考え方は企業と家庭で大きく異なり、企業の中でも業種ごとに相違があります。
この記事では製造業にスポットを当て、安定した電気の供給を確保しながら、省エネをどのように実現できるのかを解説します。
目次
製造業における省エネが必要な背景
いつの時代も企業は最小限のコストで、最大限の利益を得ようとします。その観点から考えれば、製造業において省エネを図ることはコスト削減に繋がるため、ごく自然なことといえます。
近年ではそれに加え、地球温暖化対策としての省エネも必要になっています。個人だけでなく、製造業を営む企業がこの問題に関心を払うべきなのは、使用する電力が膨大だからです。
各製造業が自社のことばかり考えれば、いずれエネルギーの安定供給確保に影響が及び、結果的に自分で自分の首を絞めることにもなりかねません。
省エネ法:エネルギー使用の合理化に関する法律
日本ではエネルギーの安定供給確保の観点から、法律によって企業の経済活動が規制されています。そのうちの代表的なものが省エネ法です。
省エネ法はオイルショックをきっかけとして、1979年に「内外のエネルギーをめぐる経済的社会的環境に応じた燃料資源の有効な利用の確保」と「工場・事業場、輸送、建築物、機械器具についてのエネルギーの使用の合理化を総合的に進めるための必要な措置を講ずる」ことなどを目的として制定されました。
年間エネルギー使用量(原油換算値)が合計1,500kl以上になる事業者が省エネ法の対象であり、違反者には罰則もあります。
温対法:地球温暖化対策の推進に関する法律
地球温暖化対策推進法(温対法)は1997年の京都議定書の採択を受け、地球温暖化対策の第一歩として1998年に成立しました。
その後、改正を重ねながら京都議定書の目標達成を確実にするための措置が盛り込まれてきました。
2020年秋には、2050年までにカーボンニュートラルを実現するとの宣言がされたため、2021年にそれを基本理念として法的に位置づけ、企業の排出量情報のデジタル化やオープンデータ化を推進するための改正がされています。
報告義務が課せられる温室効果ガスの種類と、対象者は以下のとおりです。
- エネルギー起源の温室効果ガス
全ての事業所の年間エネルギー使用量合計(原油換算値)が1,500kl以上の事業者 - 非エネルギー起源CO2やメタンなどの温室効果ガス
21人以上の従業員が在籍し、すべての事業所の排出量合計がCO2換算で3,000トン以上となる事業者
省エネ法と同じように罰則規定もありますが、異なる部分も多いため、事業者はどちらの法律にも精通しておく必要があります。
製造業が省エネを行うメリット
省エネ法や温対法で定められている事業者は一定の省エネ対策を講じる義務が課せられていますが、その対象から外れるとしてもすべての製造業は省エネを経営方針の柱とし、積極的に取り組むべきです。そのメリットを3つ取り上げます。
省エネによる経費削減
資源エネルギー庁の調査によると、製造業の使用電力のうち、空調や照明など一般設備によるものは17%であり、83%もの電力が生産設備で消費されています。
製造業の場合、工場を稼働させるために膨大な電力を常時使用しており、これがコストの大部分を占めていることがわかります。
そのため、工場を含めた事業所全体で省エネに取り組めば、経費の大きな削減が可能になるのです。
設備の長寿命化
生産設備で使用される電力を減らすためには稼働時間だけでなく、機械にかかる負荷をできるだけ軽減する必要もあります。 そのためには、機械の定期的なメンテナンスを行う必要があります。
たとえば、潤滑油などの油脂類は交換せずに使い続けると本来の性能を発揮できなくなり、機械の作動効率を落としフィルタの目詰まり原因にもなります。
定期的に交換すれば、結果的に生産設備を長寿命化させ故障による設備の買い替えも減って、コスト削減にも繋がります。
企業価値の向上
近年、社会全体の温暖化対策への意識が高まっているため、企業も社会的責任を果たすべきであるとの要請が強くなっています。
CSR(Corporate Social Responsibility)は、企業が自社の利益を追求するだけでなく、企業活動が社会に与える影響に責任を持ち、よりよい社会を作るために行動していくことです。
省エネに対する取り組みはCSRとしてたいへん重要であり、対外的にもアピールできるため、企業価値の向上・イメージアップにも繋がります。
長期的な観点からみれば、こうした本質的なブランディングにより他社と差別化を図ることができ、資金調達も容易になる可能性があります。
製造業の省エネ化ポイント
どの分野の製造業においても省エネは必須であり、その実現のためにはさまざまな施策があります。
そのなかでも重要なのは自社の電力使用状況にあった対策を講じることです。まずどの製造業にも共通する4つのポイントを取り上げます。
エネルギーの「見える化」で使用量を把握
どのような省エネ対策を行うか、具体的な方法を考えるにあたり、自社の電力使用状況を正確に把握することは重要です。
この段階を踏まずにやみくもに省エネに取り組もうとしても、効果が出にくいため現場のモチベーションが下がり、場合によっては工場設備の稼働効率を下げてしまう恐れがあります。
それに対し、工場の電力の使用状況を見える化すれば、もっとも消費電力が高い設備に着目して効率的に対策を打てます。
また、どこで無駄が生じているかを把握しやすいため、従業員の省エネに対する意識も高まります。見える化による削減効果は一般的に、全体の消費電力の7%から10%にもなるといわれています。
一つひとつの対策は小さいように見えても、全体として大きなコスト削減に繋がるのです。
太陽光発電による自家消費
環境省によると、国内の二酸化炭素排出量の33%が「産業(製造業、建設業、鉱業、農林水産業)」からのもので、さらに製造業からの排出は産業全体の90%以上を占めています。
製造業での二酸化炭素排出量が多いため、その削減に向けて太陽光発電などの再生可能エネルギーへとシフトすべきだといえるでしょう。
企業としても、工場の屋上や遊休地に自家消費型の太陽光発電設備を設置すれば、電力会社からの電力の購入を減らすことができ、長期的にみてコスト削減に繋がります。
また、製造業が災害時においても安定した設備の稼働を可能な限り続けるためBCP(事業継続計画)の策定が求められますが、その際には自家消費型の太陽光発電設備は不可欠といえます。
別途費用がかかりますが、蓄電池を併用すれば災害などにより停電した場合でも、蓄電した電気で当座の電力をまかなえます。
省エネ設備の導入
工場内で使用する照明や空調、製造設備を省エネ効率の高いものへ交換することも省エネ化の取り組みの1つです。
大規模な生産設備の買い替えは導入コストがかかるため容易ではありませんが、すぐにできることとして、工場で一般的に使用されている水銀灯をLEDや無電極ランプへ交換することなどが挙げられます。
LEDはよく知られていますが、無電極ランプはフィラメントや電極がないため長寿命でランプ効率も高いといわれています。
ただ、こうした照明器具を交換する場合、光の感じ方や見え方に変化が生じるため注意が必要です。安全に稼働できる環境を確保するには、工場内のどの部分をLEDや無電極ランプに交換するのか検討するなど、慎重さも求められます。
工場非稼働時の省エネ化
工場内で使用するエネルギーは、「生産運動エネルギー」と「固定エネルギー」に分類できます。工場稼働時には生産設備を動かすために前者が必要ですが、省エネのためには工場非稼働時に消費している固定エネルギーにも目を向けなければなりません。
一例として休日や休憩時など操業を行っていない時に消費されるエネルギーや、設備起動や立ち上げ、メンテナンスの際に必要なエネルギーなどが含まれます。この固定エネルギーをできるだけゼロに近づける取り組みも大切です。
製造業の省エネ事例
製造業において行える一般的な施策を取り上げました。以下では具体的事例を取り上げ、どのような効果が得られたのかを見ていきましょう。
宮崎県農協果汁株式会社(清涼飲料水製造業)
清涼飲料水を製造するこの企業では、専門家のアドバイスによりボイラー設備の稼働プロセスに、エネルギーロスが生じていることが明らかになりました。
その指摘に基づき、自社に放置されていた遊休資材を再利用して設備の改善を図ったところ、省エネルギー率3.1%を実現、わずか100万円の投資で年間1,600万円の費用対効果が得られました。
この事例から、省エネには必ずしも大規模な設備投資は必要でなく、自社が使用している設備に精通した上で、専門家からのアドバイスを活用することが大切であるとわかります。
近江電子工業株式会社
同社の工場では空調設備の老朽化に伴い、本来の性能の4分の1程度の性能しか発揮できておらず、消費電力が非常に大きく状況に応じた適切な制御ができず、工場内を最適な環境に保つことが難しくなっていました。
そこで大幅な省エネを目指し、新たな空調設備を照明設備と併せて導入しています。結果として、電力使用量は改修前に比べ約15%削減、最大需要電力(デマンド値)も約13%の削減に成功しました。
導入後は、従業員の省エネに対する意識も高まり、工場全体の設備を一気に動かすのではなく、デマンドをコントロールできるようになりました。
まとめ
社会的な要請が高まり、膨大な電力を使用する製造業にとって省エネは必須の経営視点といえるでしょう。すぐに大規模な設備投資はできないとしても、長期的な視野を持ち、できる取り組みから始めたいものです。
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