脱炭素社会実現に向けた動きが加速しており、日本国内だけでなく世界各国共通の課題となっています。さまざまな取り組みが行われているなかで、「EP100」と呼ばれる「事業のエネルギー効率(Energy Productivity)を倍増させる」目標があります。その背景や、企業がEP100に参加するメリット、取り組み事例をご紹介します。
目次
EP100とは?
EP100とは国際的なイニシアチブのひとつで、省エネ効率を50%改善といった事業のエネルギー効率向上を目指す企業が参加する取り組み。ここでいう「イニシアチブ」とは「主導権」ではなく、問題解決に向けた構想や戦略という意味が込められています。
「EP」とは「Energy Productivity」の略で、エネルギー生産性を指します。省エネと聞くと不要な電気を消す、消費電力を抑えるといった「節電」をイメージする方もいますが、現在利用しているエネルギーを効率よく運用し、エネルギー消費量の根本的な削減を目指すのがEP100の目的です。
EP100は国際的環境NPOであるThe Cliamate Groupが運営しており、日本では「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)」を通じて申請できます。
RE100・EV100との違い
EP100と似た取り組みにRE100、EV100があります。いずれも温室効果ガスを削減し、脱炭素社会を目指す取り組みですが、アプローチが異なります。
RE100(Renewable Electricity 100%)は2014年に始まった、企業が事業運営を100%再生可能エネルギーでまかなおうとする国際的なイニシアチブで、EP100と同じくThe Cliamate Groupによって運営されています。世界中で268社(2020年1月時点)が参加しており、日本企業も43社含まれています。
EV100(Electric Vehicle 100%)は2030年までに加盟企業が利用する車両を100%電気自動車化しようとする取り組みで、世界中で88社(2020年9月時点)が参加しており、その中には日本企業5社も含まれています。
EP100の参加条件
EP100への参加には3つの条件のうち1つを選択し、公式に目標として掲げるのが条件となります。
- エネルギー効率2倍
基準となる年を定め、そこから25年間でエネルギー生産性倍増を目指します。 - EMS(エネルギーマネジメントシステム)の導入
エネルギー生産性目標のため、10年以内にEMS導入を目指す。EMSとは、エネルギー効率を継続的に改善させるため、エネルギー管理と工程を確立させるシステムです。 - 「ZEB(ゼブ:Net Zero Energy Building)」の所有
2030年までに、企業が所有しているビルの「ZEB化」を目指します。ZEBとは、省エネだけでなく太陽光などを利用してエネルギーを「つくる(創エネ)」ことにより、建物全体として一次エネルギー消費量を実質ゼロにすることです。
EP100の加盟状況
EP100を運営しているThe Cliamate Groupの公式ホームページによれば、加盟企業は世界中で123社(2020年12月15日時点)にのぼります。その中には日本企業3社(大東建託株式会社・NTT日本電信電話株式会社・大和ハウス工業株式会社)も含まれています。
EP100に取り組む社会的・経済的背景
企業のEP100に向けた取り組みと、気候変動と関係した社会的・経済的背景はどのように繋がっているのか具体的に見てみましょう。
脱炭素社会への社会的要請
パリ協定を踏まえて政府は、2016年の地球温暖化対策計画において「2030年度までに26%削減」という中間目標を掲げました。パリ協定とは2015年12月に開かれた第21回締約国会議(COP21)で採択された、気候変動に関する国際条約です。
2020年10月に行われた臨時国会で菅首相は、「2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする脱炭素社会の達成」を明言、EUやアメリカを含めた先進諸国と足並みを揃える方向を目指しています。
この目標達成のためには、家庭での省エネや個人の意識向上だけでは不十分であり、EP100を始めとした企業の主体的な取り組みが不可欠です。
ESG投資の拡大
世界の動向として、ESG投資が拡大しています。ESG投資とは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の3つの要素に着目した投資のこと。その背景にはやはり気候変動があり、機関投資家はこれら3つの要素に配慮している企業に成長の持続性があると判断します。
そして投資先を選ぶ際の判断材料となるのが、企業がEP100などの国際的イニシアチブに参加しているかどうかです。つまり、企業はEP100への参加を目指すことにより、投資家に対して自らの経営スタンスを積極的にアピールできるのです。
EP100に参加する4つのメリット
企業の経営方針として「脱炭素社会」がキーワードであることは確かですが、EP100への参加は簡単に達成できる目標ではありません。EP100への参加が自社にとって、どのようなメリットを生むのか見てみましょう。
コスト削減
前述したようにEP100に参加するためには、エネルギー効率向上のために3つの条件のうちいずれかを満たすことが求められます。どれも簡単に満たせるものではなく、初期投資に膨大なコストがかかることが予想されます。しかし、限られたエネルギーを有効活用するシステムを一旦導入すれば、その後は長期間に渡るコスト削減が可能になります。
競合他社との差別化が図れる
EP100に参加している国内企業は、2020年12月現在でわずか3社です。国内企業でも脱炭素社会を目指した経営を行っている企業は増えていますが、投資家やステークホルダー(利害関係者)への周知や差別化が図れていません。
たとえば大和ハウスは、建設・住宅業界としてのRE100とEP100の両参加は世界初です。先述したとおり、ESG投資はEP100などの参加が判断基準の1つとなりますので、競合他社との差別化を図りたい企業にとって、参加表明は大きなアピールポイントといえます。
自社への波及効果
EP100参加条件にエネルギー効率2倍がありますが、この目標を達成するためには事業戦略の転換のみならず、環境に配慮したイノベーション(技術革新)が不可欠です。
すでにEP100 に参加しているNTTは、情報処理や大規模サーバの冷房による電気使用量を減らすために、高効率電力設備の導入や通信設備の省エネルギー化に取り組んでいます。
また、企業が脱炭素という社会的な要請に配慮し、EP100参加を経営戦略の1つに取り入れることで、企業価値を高められます。そのビジョンが企業全体に浸透すれば、従業員が自社への愛着(エンゲージメント)も持ちやすくなります。
投資を呼び込める
前述したように世界中の投資家、とりわけ安定した投資先を求める機関投資家はESG投資へとシフトしています。そうした投資家に対し、企業のEP100参加は地球環境に配慮した取り組みを行っているとアピールでき、積極的な投資を呼び込めます。
EP100に参加している企業の取り組み
大和ハウスグループの取り組み
大和ハウスグループは、環境長期ビジョン「環境負荷ゼロ」などを経営戦略として打ち出しています。再生可能エネルギーの活用を促進、2018年3月時点で未利用地などを活用した発電量は事業で使用する電力の6割を超えました。
また2005年を基準年として、2015年のグループ全体におけるエネルギー効率を比較すると2倍になり、今後も2015年比で2030年までに1.5倍、2040年には2倍の省エネを目指しています。
NTTグループの取り組み
NTTグループの2017年における電力使用量は、83.1億kWhで国内の1%を占めるまでになり、エネルギー効率は同社にとって重要な課題です。
前述したように同社は技術イノベーションにより通信設備や電力設備の省エネルギー化に取り組むだけでなく、グループで保有している一般車両約1.1万台を2025年までに50%、2030年で100%のEV化を目指しています。それにより、NTTはEP100とEV100の両方に参加する最初の会社となりました。
大東建託の取り組み
大東建託は2020年8月にEP100に参加し、2030年度までに2017年度比で事業活動におけるエネルギー効率2倍を宣言しました。2019年度におけるエネルギー消費の63%が社用車運転に伴うガソリン消費だったため、省エネ効率の高い車両の導入や効率的な車両運用方法を策定しています。
まとめ
EP100を含め、脱炭素社会実現への取り組みは国際的なイニシアチブとなっています。エネルギー効率2倍の達成は簡単な目標ではありませんが、経営力強化の取り組みとして取り入れることで、投資家やステークホルダーへの大きなアピールとなります。
また、地球環境問題に着目した取り組みは多くありますので、RE100・EV100などと合わせて行うことでさらに競合他社と差別化が図れます。脱炭素化に向け、EP100の導入も視野に入れた経営戦略を練ってみてはいかがでしょうか。
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