脱炭素社会の実現には、企業の本腰を入れた省エネ対策が必要になりますが、それを支えるシステムとして注目を集めているのがBEMS(ベムス)です。
この記事では、省エネ対策に必要なエネルギーの「見える化」に特化したBEMSについて解説しています。
BEMS(ベムス)とは?
省エネ対策が求められる現代では、EMS(エネルギーマネジメントシステム)の需要が高まっています。EMSは工場や家庭などで運用され、ICT(情報通信技術)を活用したエネルギーの「見える化」 と最適なエネルギー管理を目的としています。
BEMSとは「ビル・エネルギー管理システム(Building Energy Management System)」の略称で、対象はオフィスビルや商業ビルに限られています。
BEMSは、ビル内のエネルギー消費に関するデータの蓄積・分析が可能です。データに基づいて効率的なエネルギー利用へと改善を重ねていくことにより、エネルギー効率を高められます。
BEMSの普及率
総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済によると、2015年における有望4業種施設(事務所ビル、物販・飲食・サービス施設、医療・福祉・宿泊施設、大学)のBEMS普及率は12%で、2020年度には18.7%まで向上すると見込まれています。
画像引用:富士経済グループ|BEMS、BAS、ESP、FEMSエネルギーソリューションの国内市場を調査内訳をみると、物販・飲食・サービス施設での普及率がもっとも高く、2015年は29.4%、2020年には35.9%まで高まると予測されています。
チェーン化されている店舗や施設が多くBEMS関連設備の導入がしやすい点や、総エネルギー消費量における電力の割合が高いため、BEMS導入による省エネ、コスト削減のメリットが大きいことが理由として考えられます。
BAS(中央監視・自動制御システム:Building Automation System)との違い
従来、大型ビルで導入されてきたBAS(中央監視・自動制御システム)という設備があります。
BASは、建物内の空調、照明、防犯セキュリティ等設備の運転やエネルギー利用状況に関するデータを収集し、自動制御したり、故障検知を行ったりする総合システムです。しかし、ビル設備やエネルギーに関するすべてを監視、コントロールするため導入コストは膨大です。
これに対し、BEMSはBASが担う機能のうちエネルギーの「見える化」に特化したものであるため、BASに比べて導入コストを抑えられます。
BEMSが必要とされている理由
脱炭素社会への意識の高まり
2015年12月に新たな温暖化対策としてパリ協定が採択され、196ヵ国や地域が合意しました。その内容とは、世界の平均気温上昇を産業革命前(1850年頃)から2℃未満に抑えるというものです。
しかし、現在のペースでCO2を排出すれば約25年で2℃未満の達成は困難になるといわれており、世界各国の意識は「低炭素」から「脱炭素」に大きく変化しました。国内においても、法律や政策による規制だけでなく、企業レベルでの省エネ対策が求められています。
ZEBやSBTイニシアチブに参加し、「脱炭素経営」をアピールできる
ZEB(ゼブ)とは、建物で使用するエネルギーを減らすと同時に、創エネ(太陽光などを利用してエネルギーを創ること)でエネルギー消費量を実質ゼロにする試みです。
環境省と経済産業省は、ZEBの実証に取り組むビルに対して支援補助金を設けています。
画像引用元:環境省|ZEB PORTAL(ゼブ・ポータル)ZEBとは?
SBTイニシアチブとは、企業に対してCO2削減目標を設定するよう求める取り組みですが、企業はこれに加盟すれば脱炭素経営をアピールできます。これらの取り組みに参加するためには、BEMSによりエネルギー消費量を可視化することが不可欠です。
BEMSで省エネ対策ができる仕組み
BEMSはビルのエネルギー消費量を可視化するシステムですが、BEMS導入が省エネ対策につながるその仕組みをご説明します。
エネルギーの見える化が省エネのポイント
省エネとは、言い換えると「エネルギーを効率よく使う」ことです。
BEMSによって「いつ・どの設備で・どのように」エネルギーが消費されているのか把握できれば、ムダに消費されているエネルギーを特定できます。
担当者は、データに基づいてエネルギーの使用状況を分析・予算管理をしながらPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を繰り返し、エネルギー効率を高めていけるのです。
また、従業員が一丸となって省エネに取り組むためには、エネルギーの使用状況を全体で共有した上で、削減目標を明確に設定しなければなりません。この点、BEMSで収集したデータをグラフ化すれば、従業員の理解や協力も得やすくなるでしょう。
エネルギーの見える化に必要な装置や機器
BEMSは制御部・監視部・管理部の3つから構成されています。
- 制御部:温度や湿度、人の有無を感知するセンサー・電力量計・ガスメーター等の計測器等を含み、建物の各フロア、各ポイントから測定したデータを監視部に送信します。
- 監視部:受信したデータに基づき、エネルギー使用状況を分析した上で、過去の運転実績などから需要予測も行い、空調や照明の運転を最適化します。
- 管理部:空調や照明機器の清掃や保守などを行います。
画像引用元:環境庁|トップランナー機器への買い替え
BEMSを導入するメリット
エネルギー消費傾向の把握と省エネ化
BEMSを活用すれば、快適なオフィス環境を損なわず、最適な方法でエネルギーを利用して省エネを実現できます。
たとえば、ビルにおける一般的なエネルギー消費割合は空調が50%、照明が21%といわれています。BEMSを活用すれば、それまで一律に使用していた照明や空調を、人が少ない場所と時間帯は制御できます。
資源エネルギー庁によれば、BEMSの導入でビルは約10%のエネルギー削減、2030年には国内で約235万kLの省エネが実現できると予想しています。
省エネ法の基準クリア
省エネ法では、事業者全体でのエネルギー使用量の把握が求められており、この規制の対象となる事業者は、省エネ法に基づいた義務や目標が課せられます。
その一環として、一定規模以上のエネルギーを使用する事業者に対して、「エネルギー使用状況届出書」の提出が義務付けられていますが、BEMSを活用すればエネルギー使用量の把握、それに基づく改善や目標設定、届出書の提出も容易になります。
LCCの低減
LCC(ライフサイクルコスト)とは、イニシャルコスト(初期費用)とランニングコスト(維持費)をトータルに考えた生涯費用を意味します。
BEMSでエネルギー使用状況を絶えず把握していれば、どの設備のエネルギー効率が低下しているか特定しやすくなります。効率が落ちているものや老朽化した設備を、適切なタイミングでメンテナンスを実行すればLCCを抑えられます。
BEMSを導入するデメリット
導入コストが高い
長期的な視点でみれば導入するメリットが大きいBEMSですが、安くない導入コストかかることは否めません。
前述したBASに比べれば導入コストは抑えられますが、ビルの各所に設置するセンサーやデータを送受信するための通信設備、工事費は最低限必要です。
さらに、ZEBの導入に本格的に取り組むのであれば、創エネや蓄エネ設備の設置も必須になります。こうした導入資金の調達が難しい企業もあるため、経営者として慎重な判断が求められます。
専門的知識が必要
BEMSを効率的に運用するには、専門的知識が必要です。ただエネルギー使用量を把握するだけでは省エネ対策や経費削減に高い効果を生み出すことは難しく、どのように制御・管理するのかが重要となります。
そのため、エネルギー管理に対する専門家や、ノウハウのある人材を確保しなければなりません。
BEMSの導入事例
中小テナントビルにおけるBEMS導入事例
株式会社ポプラは、空調設備の省エネ化を検討していた2013年にBEMSを導入しました。
空調設備の目標温度を設定(夏場26℃・冬場20℃)し、目標に達したら空調の運転を止めるようにして電力使用量の削減を図りました。また、電力使用状況が見える化されたことで、不要な照明を消灯するなど節電意識が向上したというビルオーナーは話しています。
(参照元:中小テナントビルにおけBEMS導入事例|公益財団法人 東京都環境公社)
株式会社アートウインズは、3階建ての製造と事務を行う事業所へBEMSを導入し、エアコン16台の制御を目指しました。
導入したシステムは自動でデマンドをコントロールできる機能を持っていたため、現場で働く人の手を取ること無くエネルギー使用量を抑え、電気料金の削減に繋げることに成功しています。
(参照元:BEMS導入事例 工場-2|大阪府)
まとめ
気候変動問題の深刻化により、脱炭素社会実現への意識は今後もますます高まっていくことが考えられます。イニシャルコストがかかるとしても費用対効果が見込めるため、補助金制度の利用も念頭におきながら長期的なスパンでBEMS導入を検討してみてはいかがでしょうか。
BEMSと関連度の高い「ZEB」について、下記の記事でも解説していますので、そちらもぜひご覧ください。
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本記事ではBEMSをご紹介しましたが、事業所を持つ企業・法人の省エネ施策として太陽光発電も注目されています。自社の電気代削減やCO2排出削減による脱炭素経営、節税などさまざまなメリットがあります。
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