快適なビル環境を維持しながら、地球環境にも配慮し脱炭素社会を目指す建物を「ZEB(ゼブ)」と呼びます。この記事では、ZEBの概要・導入するメリット・補助金や支援制度について紹介します。
ビルのゼロエネルギーを目指すZEBの基礎知識
ZEB(ゼブ)はビルなど大型建築物のエネルギー消費の収支に焦点をあてた建物です。ビルの所有者や管理者など、あらゆる企業が関心をもつべきZEBの基礎知識をしっかりと理解していきましょう。
ZEBとは?
ZEB(ゼブ)とはNet Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称で、消費するエネルギーの収支ゼロを目指す建物です。
建物内で活動している以上、消費エネルギーをゼロにすることは不可能ですが、省エネ対策により使うエネルギーを減らすと同時に、使用する分のエネルギーを作り出すことができれば収支はゼロにできます。
大幅な省エネを実現するためには、建物の高断熱化や自然エネルギーの有効利用、空調や照明設備の高効率化、さらに太陽光といった再生可能エネルギーなどの創エネなどが必要です。
4つのZEBシリーズ
画像引用:環境省「ZEB PORTAL – ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」|ZEBの定義
ZEBには4種類の定義があります。それぞれ削減目標や対象となる建物が異なるため、違いを理解しておきましょう。
ZEB(ゼブ)
ZEBについては先述していますが、具体的には年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスの建築物とされています。また、省エネ+創エネで収支ゼロかつ、後述しているZEB Readyの要件も満たさなければなりません。
Nearly ZEB(ニアリーゼブ)
英語のNearlyは「ほぼ」という意味ですが、Nearly ZEBは言葉の通りZEBに近い建築物を意味します。Nearly ZEBと認められるには、ZEB Readyの要件に加えて、再生可能エネルギーを含む基準一次エネルギー(※1)消費量から75%以上100%未満の削減が必要です。
ZEB Ready(ゼブレディ)
ZEB Readyは、ZEBを見据えた先進建築物として、外皮の高断熱化及び高効率な省エネルギー設備を備えた建築物と定義付けられています。
ZEB Readyの要件は、再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギー(※1)消費量から50%以上の一次エネルギー(※2)消費量削減に適合した建築物と定められています。先述した「ZEB」と「Nearly ZEB」でも、この要件を満たす必要があります。
(※1)基準一次エネルギー:設備毎、地域毎、室用途毎により定められる基準となる標準的な一次エネルギー消費量のこと
(※2)一次エネルギー:天然ガスや石油、石炭などの化石燃料や、原子力、水力などの自然から取られたままの物質を源としたエネルギー
ZEB Oriented(ゼブオリエンテッド)
ZEB化の実現・普及を図るため、新たに追加されたのがZEB Orientedです。延べ面積10,000平方メートル以上の建物を対象に、ZEB Readyを見据えた建築物として高効率な省エネ設備に加え、更なる省エネの実現に向けた措置として未評価技術を導入する建築物を指します。
具体的には、事務所・学校・工場などは40%以上、ホテル・病院・百貨店・飲食店・集会所などは30%以上の一次エネルギー量削減が求められます。
ZEBや省エネ化が必要な理由
気候変動の深刻化とともに世界各国で脱炭素社会への意識が高まり、省エネやZEBへの取り組みが求められるようになっています。
特に日本全体の消費エネルギーのうち、事務所ビル・商業施設などの建物が占める割合は約12.6%(1990年度)から約16.1%(2018年度)へ増加しています。そのため、建物のエネルギー消費量削減に対する社会的要請は特に強いといえるでしょう。
2016年5月に閣議決定された「地球温暖化対策計画」では、2030年までにCO2排出量を2013年度比40%削減するために、新築建築物の平均でZEB実現を目指すことを政策目標に掲げました。それに対応して2017年4月には「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」も全面施行、ZEB標準化に向けた動きは加速しています。
主な建築物のエネルギー消費状況
建築物で使われるエネルギーは、以下のように分類されています。
- 空調のための温熱や冷熱を作る「熱源」
- 熱を運ぶ「熱搬送」
- ボイラや電気温水器などの「給湯・蒸気」
- 照明や事務機器のために用いられる「照明・コンセント」
- エレベーターやエスカレーターなどの「動力」
- 「その他」
消費量の多いエネルギーは「熱源」と「照明・コンセント」で、事務所・ビルの両数値を合計すると、62%になります。ZEBを実現させるには、各建物におけるエネルギー消費量を正確に把握して、状況に適した省エネ対策を実施する必要があります。
画像引用:環境省「ZEB PORTAL」|建築物のエネルギー消費状況
ZEBの普及は増加傾向にある
画像引用:一般社団法人 環境共創イニシアチブ|「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル実証事業調査発表会2019(PDF)」(主催:経済産業省資源エネルギー庁)p12
政府の動きに対応して、ZEBの普及は確実に進んでいます。ZEB実証事業の交付申請件数は2015年の24件から2018年には67件まで増え、交付決定件数も2015年の17件から2019年には54件まで増加しています。
ZEBの実現で得られるメリット
地球温暖化対策に有効なZEBですが、実現することによって自社にはどんなメリットがあるのでしょうか?5つのメリットについてご説明します。
メリット1:光熱費の削減
設備の高効率化による省エネと創エネにより、建物で使用するエネルギーを大幅に減らすことで光熱費の削減になります。つまり、ビルのオーナー、テナントは経費削減というメリットが得られます。
メリット2:快適性・生産性の向上
エネルギーの効率的な使用により、従業員の意識が変化し、オフィスの快適性・生産性が向上します。
結果的に従業員の満足度や顧客の集客力は向上し、オーナーにとってもテナント誘致の競争力向上に繋がります。地域住民がZEBを訪れる際にも、快適な時間をビル内で過ごすことができるでしょう。
メリット3:不動産価値の向上
前述したように、ZEBの普及は政府が取り組んでいる重要政策のひとつです。また、脱炭素社会実現に寄与するZEBは社会的要請でもあるため、不動産価値は今後増加していくことが予想されます。
最先端の建築物であるため「街の顔」として注目を集め、街全体の魅力向上にも貢献できるというメリットもあります。
メリット4:事業継続性の向上
安定した事業継続のためには、災害が襲ってきたとしても、自立してエネルギーを供給できる仕組みを確立しておくことが必要です。また、供給のみならず省エネ対策により、普段から消費エネルギーを削減することも非常時に対する備えになるでしょう。
メリット5:社会的な評価の向上
2015年9月の国連サミットでは、世界共通の目標としてSDGs(持続可能な開発目標)が掲げられました。加えて、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資の考え方も徐々に浸透しはじめ、SDGsと合わせて多くの企業が事業計画や経営方針に取り入れるようになりました。
ZEBはこうした社会的な動きと密接に関連しているため、ZEBを建てることや建物の各種認証を取得していることが投資家の注目を集め、企業評価を高めるというメリットもあります。
ZEBの実現に必要な省エネと創エネを支える3つの技術
必要なエネルギー量を減らすパッシブ技術
快適な環境を維持しながら省エネを実現するためには、パッシブ技術により必要なエネルギー量を減らす工夫が必要です。
パッシブ技術には以下のものがあります。
- 外皮断熱
建築物の外皮を熱が伝わりにくい高性能断熱材で施工し、夏は日射熱の侵入を防ぎ、冬は熱が外に逃げることを防ぎます。 - 高性能断熱・遮熱窓
窓ガラスに断熱性能が高い複層ガラスを採用すれば、熱の出入りを抑えます。 - 日射遮蔽
空調で消費されるエネルギーを抑制するために、ブラインドやルーバー、高性能ガラスなどにより室内に入る日射を遮蔽します。 - 自然採光
自然光を取り入れたり、光を反射させて室内を明るくする軒裏を設置したりすれば、室内照明の利用を減らせます。
効率よくエネルギーを使うアクティブ技術
パッシブ技術に加えて、室内環境を快適に保つために欠かせないのがアクティブ技術です。以下の2つが含まれます。
- 高効率空調
一般的に大規模建築物では、熱源を中央に集約して冷温水を送水し空調する中央熱源方式、小規模建築物では個別分散熱源方式が採用されています。いずれの場合でも、「熱源設備」「熱搬送設備」「空調機設備」について高効率な設備を選ぶことが必要です。 - 高効率照明
自然採光に加えて、LED照明やタイムスケジュールで照明を制御したり、人感センサーによる自動調光をしたりするシステムの導入が検討できます。
自前でエネルギーを創り出す創エネ技術
ZEB実現のためには省エネに加え、創エネ技術、つまり太陽光発電システムの活用が必須です。
なぜなら、再生可能エネルギーの中で太陽光は場所に関わらずその恩恵を受けられ、創エネルギー技術の中でも最も汎用化が進んでいるからです。太陽光発電システムによって、エネルギーの自給はもちろん、災害時の電源確保・環境保全のアピールもできます。
太陽光発電システムは屋上に設置するのが一般的でしたが、最近では壁面や窓面にも導入可能になっています。高層ビルの場合は屋上設置だと発電量が限られるため、ZEBによってエネルギー自給を目指すのであれば、壁面への導入も検討しましょう。
ZEBの補助金・支援制度(省庁や団体)
ZEBに関連する補助金や支援制度を最後に紹介します。制度によって締切が過ぎているものや、毎年実施されないものもあるため、必ずそれぞれの公式サイトで実施状況や募集期間などをご確認ください。
- 一般社団法人 環境共創イニシアチブ:省エネルギー投資促進に向けた支援補助金(ZEB実証事業)
民間の大規模建築物(新築は10,000㎡以上、既築は2,000㎡以上)を対象に、ZEB実現を目的とした高性能建材や設備機器等の導入に際して、補助対象経費の2/3以内、上限年間5億円の補助金を支援してくれます。(2020年は公募受付終了) - 経済産業省:中小企業等に対する省エネルギー診断事業費補助金(省エネ相談地域プラットフォーム事業)
中小企業の法人及び個人事業主を対象に、地域プラットフォームから支援・アドバイスを受けられます。 - 国土交通省:環境ストック活用推進事業(既存建築物省エネ化推進事業)
既存の民間建築物を対象に、5,000万円を上限として省エネ改修工事、エネルギー使用量の計測等などに関する費用の1/3が補助されます。
まとめ
地球環境保護の観点だけでなく、経費削減や社会的評価の向上など自社にとってもメリットの多いZEB。政府が力を入れている政策でもあるため、利用できる補助金が数多くあるのも魅力です。いきなり創エネに取り組めないとしても、省エネ対策から始めてみてはいかがでしょうか。
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