所得拡大促進税制とは|最大25%の税額控除が受けられる要件を解説
所得拡大促進税制という制度をご存知でしょうか?
給与所得の賃上げや、従業員の教育に積極的に取り組む中小企業を対象とした優遇税制です。従業員に給与還元しながら法人税の節税に繋げることができます。
一方で、従業員への給与の賃上げや人材投資に消極的な企業は、所得拡大促進税制の対象から外れてしまうため経営を有利に進めていく上では、必ず理解しておきたい税制優遇になります。
今回のコラムでは、中小企業が最大25%の税額控除が受けられる所得拡大促進税制の仕組みや制度の利用に必要な条件や方法まで解説していきます。
所得拡大促進税制とは
所得拡大拡大促進税制は、企業が得た利益を従業員へ給与や人材育成費として還元することを促し、景気の好循環を目的に施行された制度です。
対象地域の制限が無く青色申告を行っている中小企業等が、一定の要件を満たした上で前年度より雇用者へ給与等支給額を増加させた場合に適用できる税制優遇です。
さらに、2018年度の所得拡大拡大促進税制の改正によって、通常の控除額から上乗せ措置を行えることや、適用要件の見直しがあったことで、使い勝手が良くなりました。
所得拡大促進税制で受けられるメリット(税額控除)と要件
給与等の増加額の15%を税額控除
所得拡大促進税制を活用することで、従業員の給与等で支払った支給額の一部を税額控除する事ができます。更に、改正後 (2018年4月1日)からは控除率の拡充や適用要件が緩和されています。
適用要件(改正前) | 適用要件(改正後) |
---|---|
基準年度(H24年度)の給与総額と比べて、適用年度において一定割合増加していること | 要件廃止 |
平均給与等支給額が前年度以上 | 「継続雇用者給与等支給額が前年度比1.5%以上増加」に変更 |
控除率10% | 控除率15% |
改正後の適用要件では、基準年度から給与総額が一定割合増加していることが廃止され、「平均給与等支給額が前年度以上」から「継続雇用者給与等支給額が前年度比1.5%以上」と定義が明確化になり、計算方法が簡素化されました。
また、税額控除率も10%から15%へ拡充されたことにより、改正後以前と比べて所得拡大促進税制による節税効果が高まりました。
所得拡大促進税制よる控除額は、従業員の給与等支給額の前事業年度と適用年度で比較した増加額の15%の金額を控除額を算出できます。下記の例をみてみましょう。
雇用者給与等支給額(適用年度) | 110,000,000円 |
---|---|
雇用者給与等支給額 (前事業年度) | 100,000,000円 |
給与等の増加額 | 10,000,000円 |
給与等の増加額×15%(控除率) | 1,500,000円 |
上記の場合、適用年度の雇用者給与等支給額が前事業年度から1,000万円上がっています。
増加額(1,000万円)の15%=150万円が税額控除額となります。
また、所得拡大促進税制の控除額は調整前法人税額の20%が上限とされています。
上記の様に税額控除額が150万円の計算であっても、調整前法人税額が600万円であれば(600万円 × 20%)が控除額になります。
給与等の増加額の15%を税額控除(通常)の要件
次に、所得拡大促進税制で税額控除を受けるための要件を解説します。
中小企業庁では、「継続雇用者給与等支給額が継続雇用者比較給与等支給額と比べて1.5%以上増加していること」を要件と定めています。要件を理解するために、以下の3つのキーワードの定義を理解しておきましょう。
- 継続雇用者
- 継続雇用者給与等支給額
- 継続雇用者比較給与等支給額
まず、継続雇用者とは、以下のつ全てを満たす国内雇用者である事が定義されています。
引用元:中小企業庁ー中小企業向け 所得拡大促進税制 ご利用ガイドブックより
- 前事業年度及び適用年度の全ての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者である
- 前事業年度及び適用年度の全ての期間において雇用保険の一般被保険者である
- 前事業年度及び適用年度の全てまたは一部の期間において高年齢者雇用安定法に定める継続雇用制度の対象となっていない
1つ目の項目から、継続雇用者には、適用年度と前事業年度の間で途中入社した従業員や産休等の休職によって、給与支給がなかった月がある従業員は継続雇用者として含まれないことがわかります。
本制度での「継続雇用者給与等支給額」とは継続雇用者に対する適用年度の給与等支給額を意味します。また、継続雇用者比較給与等支給額とは、継続雇用者に対する前事業年度の給与等の支給額に該当します。
つまり、前事業年度の期首から適用年度の期末まで全ての月分の給与等支給を受けた一般被保険者である国内雇用者を対象に、その給与等支給額が前事業年度と適用年度を比較して1.5%以上の増加していることが、所得拡大促進税制を受けるための要件となります。
税額控除額の算出では、「国内雇用者」の給与等支給額の増加額の15%を元に計算する事になります。
国内雇用者は、パート・アルバイトや日雇い等も含まれますので、その給与等支給額も加えて税額控除の対象となります。(役員または、その特殊関係者は除く)
給与等の増加額の25%を税額控除(上乗せ)
経営者とって所得拡大促進税制の改正で最も注目したいポイントは、10%の上乗せして控除が出来るようになったことです。
継続雇用者給与等支給額が、継続雇用者比較給与等支給額と比べて2.5%以上増加していることに加えて、以下の条件のどちらか一方を満たせば国内雇用者の前事業年度と適用年度の給与等の増加額から25%の税額控除を受けられます。(調整前法人税額の20%が上限)
所得拡大促進税制の上乗せの適用要件
所得拡大促進税制の10%の上乗せを適用するために、以下の要件を満たす事が条件となります。
引用元:中小企業庁ー中小企業向け 所得拡大促進税制 ご利用ガイドブックより
- (A)継続雇用者給与等支給額が継続雇用者比較給与等支給額と比べて2.5%以上増加している
- (B)適用年度における教育訓練費の額が前事業年度における教育訓練費の額と比 べて10%以上増加していること
- (C)適用年度終了の日までに中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受けており、経営力向上計画に基づき経営力向上が確実に行われたことにつき証明がされていること
(A) は必ず満たす必要がありますが、(B)と(C)はどちらかを満たしていれば所得拡大促進税制の上乗せが適用されます。(B)と(C)の要件の詳しい内容は次で説明します。
給与等の増加額の25%を税額控除(上乗せ)の要件1「教育訓練費増加」
所得拡大促進税制による上乗せ措置の要件として、継続雇用者給与等支給額が継続雇用者比較給与等支給額と比べて2.5%以上増加しているという前提条件で、且つ教育訓練費が中小企業比較教育訓練費の10%以上の増加が認めらる必要があります。
教育訓練費は当期、中小企業比較教育訓練費は前期に支払った教育訓練費を意味します。
例えば、前年から比べ当期の継続雇用者への給与等支給額の3%増加(金額1000万円増加と仮定)して、かつ前期・当期ともに教育訓練費が0円の会社があった場合で考えてみましょう。
上乗せ要件を満たしていたないため、増加額1000万円の15%の150万円が控除額となります。しかし、もし当期に教育訓練費を1万円でも支出していれば、上乗せ措置を適用できるので税額控除は、増加額1000万円の25%の250万円になります。
これは極端な例ですが、1万円の教育訓練費を支出する事で150万円からプラス100万円分の税金が安くなるので、所得拡大促進税制を活用する際は、自社が上乗せ要件に該当するのか確認するようにしましょう。
そもそも教育訓練費とは?
次に、そもそも「教育訓練費」とはどういった費用なのかについて簡単に説明します。
教育訓練費は、従業員の技術や知識向上を習得させる目的とした学習・講習・研修等に伴う費用です。(個人事業主または役員、使用人兼務役員等は含まれません。)教育訓練費と認められる範囲は、主に外部への支払うものであり、かつ従業員の育成に伴う費用となります。
たとえば、外部講師を招いた研修に伴う費用、外部委託研修に伴う費用、講習会やセミナー参加費用、教育訓練に必要な備品や施設のレンタル費用等も教育訓練費に含まれます。
また、教育訓練費として認められない範囲としては以下が定められています。
引用元:中小企業庁ー中小企業向け 所得拡大促進税制 ご利用ガイドブックより
- 教育訓練期間中の人件費
- 教育訓練等に伴う旅費、食費、交通費等
- 教育訓練以外を目的とした費用
- 法人等が所有する施設等の使用料(水道光熱費等の施設維持費含む)
- 法人等の施設等の取得等に要する費用
- 教材等の購入・製作に要する費用
- 教育訓練の直接費用でない大学等への寄附金、保険料等
教育訓練費については、会計処理がやや複雑で、該当費用についても細かくルールが設定されている為、中小企業向け 所得拡大促進税制 ご利用ガイドブックを確認、または担当税理士に相談する事を推奨します。
給与等の増加額の25%を税額控除(上乗せ)の要件2「経営力向上」
次に、所得拡大促進税制による上乗せ措置に必要な、経営力向上の適用要件について解説していきます。
経営力向上による上乗せを行う場合、こちらも教育訓練と同様に、継続雇用者給与等支給額が継続雇用者比較給与等支給額と比べて2.5%以上増加している事が前提条件となります。
経営力向上要件の適用までの流れを見ていきましょう。始めに、適用年度終了日までに中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定取得した上で、経営力が向上したことを証明しなければなりません。
その証明として経営力向上報告書を作成し、経済産業省に提出しましょう。
最後に、【認定を受けた経営力向上計画】【経営力向上計画の認定書】【経営力向上報告書】の3点の写し(コピー)を税務申告書に添付して管轄税務署に提出します。
ここまでが、所得拡大促進税制の上乗せ(経営力向上)適用要件の流れです。 経営力向上報告書の作成、及び提出については、経営力向上計画申請プラットフォーム でオンライン上で行う事が可能です。
初めて申請を行う事業者は、gBiziDのプラットフォームにてビズIDを取得後、会社情報の登録を行う必要があります。
2「経営力向上」に認められる具体的な指標は、基本方針により認定を受けている場合と事業分野別指針によ認定を受けている場合で異なります。
基本方針により認定を受けている場合、主に労働生産性が経営力向上の指標になります。
事業分野別指針により認定を受けている場合、労働生産性、売上高経常利益率、付加価値額が経営力向上の指標となります。(事業分野によってはいずれか1つの場合もある。)
労働生産性・売上高経常利益率・付加価値額これらは事業分野によって評価対象やその計算方法が細かく設定されています。
経営力向上計画の作成は、税理士にご相談頂くか、中小企業向け 所得拡大促進税制 ご利用ガイドブック のP12〜P17をご確認ください。
経営力向上計画の概要や策定の流れは、以下の記事で解説しています。合わせてご覧ください。
所得拡大促進税制のわかりにくい点
所得拡大促進税制を理解して税額控除を受ける上で、わかりにくい点や疑問に感じやすい点を、Q&A形式で紹介します。
所得拡大促進税制の対象になる中小企業等の要件は?
以下の全てに該当する法人が中小企業だと定義されてます。
- 資本金が1億円以下の法人
- 発行済株式、出資総数、出資総額が資本金1億円超えの大規模法人に50%以上所有されてない法人
- 発行済株式、出資総数、出資総額が複数法人に3分の2以上所有されていない法人
- 資本、又は出資を有しない法人
- 従業員の数が 1,000 人以下の法人
なお、2019 年4月1日以降に開始する事業年度である場合、その事業年度開始日以前の3 年以内に終了した各事業年度の所得額の年平均が 15 億円を超える法人は、適用条件が中小企業者等ではなく大企業と同じになります
所得拡大促進税制の利用で事前に必要な書類はあるか?
税務申告より前に特段の書類準備や手続きは不要です。
ただし、適用要件を満たす為には、法人税の申告に際し、確定申告書等に、控除対象となる雇用者の給与等増加額と控除額、これら算出する為に必要な証明書を添付して税務申告しましょう。
残業手当や休日手当などは所得拡大促進税制の給与に含まれる?
対象となる給与等支給額は、適用年度の「全ての国内雇用者」への支給額の総額を意味します。つまり、俸給・給料・賃金・歳費・賞給与など国内雇用者の給与所得に該当するものが対象となります。
ただし、以下の非課税になる手当ては含まれません。
- 通勤手当ての内、一定額に満たないもの
- 転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの
- 宿直や日直の手当の内、一定額に満たないもの
困ったら税理士に相談する
所得拡大促進税制は、他の税制と比べて適用要件と申請の難易度が高くありません。しかし、申請ミスのリスクや申請までの時間や手間を考えると、自身で申請するよりも取引のある税理士に事前に申請の相談することがおすすめです。
取引のある税理士がいない場合でも、税理士への相談料よりも所得拡大促進税制が経済的メリットが高いのであれば、新規で税理士を雇うことも検討してみましょう。税理士事務所のWebサイトに所得拡大促進税制のサポート費用が記載されている場合もありますので、ぜひご確認ください。
中小企業が設備投資で使える税制優遇もある
所得拡大促進税制は、従業員の給与所得の賃上げを目指しつつ節税になるため、より良い会社にしていくためにも検討したいものです。
そのほかにも、中小企業の設備投資が対象となっている税制優遇がいくつかあります。「中小企業経営強化税制」や「中小企業投資促進税制」では、太陽光発電システムなどの設備を導入することで、設備取得額の即時償却や10%(7%)税額控除、固定資産税の減免などが適用され、大幅な節税効果が得られます。
くわしくは以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
まとめ
所得拡大促進税制は、中小企業の節税対策として非常に使い勝手が良い優遇税制です。その他にも、中小企業経営強化税制や中小企業投資促進税制など中小企業の経営にとって節税効果のある制度がいくつか存在します。
新型コロナウイルスの影響もあり新規顧客の獲得に苦戦している多くの中小企業にとって、企業の財務体質の強化を考えるのであれば「売り上げを伸ばしていく」だけでなく、節税や経費費の削減に目を向けていくことも必要です。
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